Person 11 ジョルジュ・エネスク 憧れに添うもの
初版 2024/02/18 12:25
エネスク/ピアノ四重奏曲第1番ニ長調OP.16
第1楽章 アレグロ モデラート
第2楽章 アンダンテ メスト
第3楽章 ヴィヴァーチェ
第2番が円熟の領域の作品であるとしても、18,9の年齢で作曲されたこの作品は構成において既に確固たる方向性がある。
彼は旋律の流れるままに歌を紡いでゆき、それに弦楽の浮遊感のある雰囲気を重ねて行きながら全方向から光が当たるグルービィな音楽をつくったのではない。
まるで彼が生涯演奏者として支持し続けたブラームスのように、旋律よりも明快な構成と音の重奏がつくり出す空気の密度で歌う。
第1楽章の冒頭の生のままの主題はブラームスの第2ピアノ協奏曲の夕映えのホルン。
ピアノのアルペジオは簡潔に弦楽の間隙を薄く存在感を残しながら同系色で塗り固めてゆく。
非常に美しく、バランスにおいて絶妙。
これは全ての楽器に対する実践的技能の上に抑制された楽器相互の効果が薄くも厚くもなく幾重にも塗り重ねられているところにある。
つまりだ。
聴くべきは旋律ではなく、純粋にアンサンブルである。
彼はピアノにおいては生涯室内楽では伴奏者の立場から出なかったけれど、彼のソナタの独創性からすればそれは練達の域に達していたのだし、ヴァイオリンの演奏に関してはティボー、クライスラーと共に20世紀のもっとも優れたヴァイオリニストに掲げられていた。
チェリストではなかったが、2曲のチェロ・ソナタも先鋭的でありつつ美しい。
晩年は大戦を経験したどの作曲家もそうであるように、作風が穏健で抒情的になるけれど、ここにはその気配は何処にもない。(当たり前かこのときやまだ若いんだから。ルクーのような例外もいるけれど)
第2楽章のアンダンテは感情表現が求められているけれど、音楽はそれほど深く抉られるものではなく、ブラームスの気配を残しながら独自の近代的な真の中に弦楽とピアノのやりとりを収めてゆく。
ピアノとチェロの対話が決して旋律的ではないけれど、とても美しい。
『メスト』と指定するには、気持ちを籠めるフレーズが短く、弦楽は難儀するのじゃないかなあ。
緊密に織り重ねられたアンサンブルだけれど、最後には次第に熱を帯び音楽の層は揺れ、共振し、心の深いところでブラームスへの内なる共感が頭をもたげつつ、静けさに溶けてゆく。
第3楽章は推進力のある音楽。各パートはポリフォニックに動き、旋律線が一本に纏まる感じではなく、個々が全体であって部分ではない。
共鳴する部分よりも音楽は交響的に交錯し、何処へ行くのかちょいと不安になるくらい変幻してゆく。
表現の核になっているのはここではピアノ。
だからもう一度ピアノパートを通して聴いてみる。
この楽章はこういうのを目指したのか、偶然こうなったのかボクにはわからない。
でも、こういうピアノ四重奏曲の終楽章はブラームス以来聴いていないような気がするんだけど。
これは18.9の年齢でどうかなる作品ではない。
Mineosaurus
古生物を中心に動物(想像上のもの)を含め、現代動物までを描くイラストレーターです。
露出度が少ない世界なので、自作の展示と趣味として行っている地元中心の石ころの展示を中心に始めようかと思っています。
海と川が身近にある生活なので気分転換の散歩コースには自然が豊富です。その分地震があれば根こそぎ持っていかれそうなので自分の作品だけは残そうかとAdobe stockを利用し、実益も図りつつ、引退後の生活を送っております。
追加ですが、
古いものつながりで、音楽についてもLabを交えてCD音源の部屋をつくっています。娘の聴いてるような音楽にも惹かれるものがありますが、ここではクラッシックから近代。現代音楽に散漫なコレクションを雑多に並べていきながら整理していこうかと思っております。走り出してから考える方なので、整理するのに一苦労です。
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