タルフィセラス目のノーチロイド標本に関する再考
初版 2024/02/06 15:39
改訂 2024/02/25 04:51
前置き
Peismoceras sp.として入手した標本を調査したところ、全くの別属であると判明したので、個人的な備忘を兼ねて綴る。

Discoceras sp.
https://muuseo.com/Nautil_Works/items/1

写真:Peismoceras sp.として販売されていた購入標本
本物のペイスモセラス属との形態的な乖離
本物のペイスモセラス属は成長倍率が高く太いリブを形成し、全体的に揺る巻きで右曲がりに巻く。
半世紀前に編纂された古軟体動物の教科書、パートKにも載ってる。

引用:“Treatise on Invertebrate Paleontology Part K, Mollusca 3, Complete Volume”

引用:“Wikipedia”
アマチュアの多くが誤認
入手以前から、同形態の標本がペイスモセラス属として紹介されている写真を多数見ており、今回入手した標本についてもペイスモセラス属の一種として認識していた。
入手時にも念のため軽くWebで調査もした。
その祭にも、同形態の標本がペイスモセラス属として多数ヒット。
あまりにも多くヒットするので疑念を抱く余地もななく、こういった形態の種なのかと錯覚したほど。
更にくだんの標本を販売していたセラーは、化石の取り扱いにおいて極めて専門性の高いセラー。
しかし、情報の少ないノーチロイドについてはこうした事象が起こりうる。
専門資料による調査
コレクターの自慢サイトや写真ではなく論文などのアカデミックな資料を漁った。
その中で、私の所持する標本と同形態の属種をディスコセラス属として紹介している資料を発見した。


引用:“Silurian tarphycerid Discoceras (Cephalopoda, Nautiloidea): systematics, embryonic development and paleoecology”
種小名まで同定しようと試みて資料を漁っていたところ、今回の件が発覚した。
形態、産地、年代に齟齬がなくDiscocerasでほぼ間違いないと思う。
余談
Peismoceras、Discoceras共にタルフィセラス目の仲間。
Discoceras(ディスコセラス属)という属名が紛らわしいが、ディスコソルス目ではない。
勘違いしていたPeismocerasはレクリトロコセラス科
コイル状に右巻きの属種を内包している科だと思われる。
Discocerasはトロコセラス科
連室細管が背側(巻きの内側)を通っており、ノーチロイドの中では珍しいキツ巻きの属種を内包している。
ノーチロイドは化石界のスター選手アンモノイドや三葉虫などと違い、図鑑の様なグラフィカルかつ網羅的な書籍が非常に少ないため、アカデミックなシーンと商業・個人とで知識的乖離が激し過ぎる様に感じる。
今回の標本は業界トップクラスに専門性の高いドイツのセラーから入手している。
専門性が高いセラーですら、私やWebの向こう側にいる多くのコレクター同様に誤認していた。
そもそもノーチロイドは専門の研究者が少ない。
図鑑、研究者の人口、業者の知識、流通量、コレクターの人口、全てにおいてマイノリティ。
化石というマイノリティ趣味の中のマイノリティ。
標本かき集めて
論文もしっかり読み込んで
将来的にノーチロイドの図鑑を発行したい。

Arato510
オウムガイ類、アンモナイト類、べレムナイト類などの頭足類化石を専門に収集するコレクター。
造形美に惹かれてアンモナイトを収集される方も多いので、世間では化石頭足類の花形に当たるアンモナイト目が収集の中心に据えられておりますが、私の場合は元来、生物が好きなたちで、同綱内での種の多様性や進化の系譜に惹かれて化石頭足類を収集しているため、各目を幅広く収集しております。
特に傍流が好きで、ノーチロイド(ノーチラス目以外のノーチラス亜綱の仲間)をメインターゲットに、次いでアンモノイド(アンモナイト目以外のアンモナイト亜綱の仲間)をサブターゲットにして、玄人好みのコアな標本を中心に収集しております。
オウムガイについて日本語の文章ではオウムガイ亜綱やオウムガイ目などと表現するのが一般的ですが、私の文章ではノーチラスに統一して表現するよう心がけてます。
他は学名のカナ表記にもかかわらず、オウムガイだけ和名なのが統一感がなく気持ち悪いからです。
一応、理系分野なんだからロジカルに統一して表現したいという思想から、他所ではあまり見かけないノーチラス目という違和感のある表現を多用しております。
でも、たまに染みついた既成概念に引きずられて、オウムガイ亜綱などと表現して混沌とした文章になることもあります。
また、特にノーチロイドについは、専門性の高いセラーでも誤った同定をする様な二ッチな領域です。
そんな状況の中でド素人の私が資料を頼りに頑張って同定している標本も多数あります。
同定や属種名称の読みに関して誤りがありましたら、ご指摘頂ければありがたいです。
https://twitter.com/Nautil_Works
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