右ネジ巻きの謎のノーチロイド
前置き今回はTrochoceras sandbergeriiとして販売されていたオルドコレクション。シルル紀の標本が前期デボン紀に生息していたとされる、ノーチラス目のトロコセラス属と同定されていたため、時代の不一致から不審に感じて調査に至った。 Peismoceras sp. https://muuseo.com/Nautil_Works/items/55 Arato510 写真:Trochoceras sandbergeriiとして販売されていた購入標本時代の整合性を再確認よく参考にするWebサイト、mindat.orgの情報によるとトロコセラス属が所属するRutoceratidae(ルトセラス科)の大半が前期デボン紀の属なのに対して、トロコセラス属だけ中期オルドビス紀~前期デボン紀の間で産出している履歴が出て来た。なら時代的にも問題なくなって、この標本はトロコセラス属で確定ッ!とはならない。オウムガイ目の進化の系譜はあまり詳しくないが、デボン紀にオンコセラス目から分化したノーチラス目ルトセラス科がノーチラス目の開祖だったはず。ぶっ飛んだ時代にノーチラス目の仲間が産出するわけもなく、類似形態を持つ他科他属と誤同定してるとしか思えない。(恐らくレクリトロコセラス科の属)過去の研究者の判断にケチをつけるかたちになるけど、古生物学の分野においてはこうした事が多すぎて、正直、研究者の判断だからと手放しで信用する事は出来ない。古い時代の研究・調査結果なら尚更。特にmindat.orgは情報量が多い代わりに古い情報が掲載されている。トロコセラス属は前期デボン紀~の属と考えてこの後の調査に進むことにする。因みにトロコセラスの語源は古代ギリシャ語で車輪を意味するトロコロイドから来ているらしく、本属の巻き方は幾何学で言うところのトロコロイドという形状らしい。右曲がりのレクリトロコセラス科あたりはついている。この標本と情報が合致する中期~後期シルル紀のリブ有り右曲がりグループのタルフィセラス目レクリトロコセラス科だ。レクリトロコセラス科はノーチラス目のトロコセラス属より遥か昔に産まれトロコロイド状の属種を多数内包している。元祖トロコロイド状のノーチロイド。念のため同定する際に、第一に確認する教科書(古無脊椎動物の論文パートK)で確認。引用:“Treatise on Invertebrate Paleontology Part K, Mollusca 3, Complete Volume”リブが深い属が多くサイズ感もイマイチわからないが、巻きの偏りやリブの間隔、横から見た際の殻の厚みなどPeismocerasが近いとように見受けられる。他の資料を漁る中で所持標本に近い標本写真が載っている文献を見つけた。引用:“Turek_2010_Embryonicshellsinsomelechritrochoceratids”左上に掲載のAの写真がかなり近いと言えるのではないだろうか。このペイスモセラス属は業者やマニアがよく誤認してディスコセラス属につける属名なので、Peismoceras spとして販売されていたディスコセラスの標本を入手した際に調査した事がある。※別のラボログに記載。 Discoceras sp. https://muuseo.com/Nautil_Works/items/1 Arato510 写真:Peismoceras sp.として販売されていた購入標本今回調査対象の標本に話を戻そう。形状、サイズ、産地、年代、いずれも齟齬が見当たらないので暫定でPeismoceras sp.として扱う事にする。余談因みに調査途中でWebサイト等でみつけたタルフィセラス科のKosovocerasもほぼ完全一致なんじゃないかと思う様な類似形態。オマケに産地年代共にほぼ一致。しかし、エボリュート(幼殻に沿った巻き)した属だらけのタルフィセラス科にあって、コソボセラス属だけ緩巻きネジ巻き形態というのは明らか不自然。レクリトロコセラス科ペイスモセラス属に酷似しいるため、シノニム(別の学名で重複登録された同一の属種)かな……。と思ったら、よく見たら巻きが逆。性的二型や近縁種という可能性もありそうだが、そういった記述がある文献が見当たらない。話しが二転三転したが、とにかく逆巻きなので考慮から除外。調べ始めるときりがなくなるので、今回はこれ以上コソボセラス属については考えないことにする。