「秘めたる空戦 ( 三式戦「飛燕」の死闘)」(光人社NF文庫/松本良男著作を幾瀬勝彬が編)

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この本は、日本陸軍の独立飛行中隊のひとつ、三式戦「飛燕」による戦闘機部隊「第103独立飛行中隊」で、ソロモン、ニューギニア戦線を戦い抜いた飛行士で陸軍少尉の松本良男氏の手記やインタビューをもとに、編者の幾瀬勝彬氏がまとめた記録です。

今回改めて読んでみたのですが、陸軍の搭乗員の自伝・戦記のなかで抜群に面白い一冊だと思います。

独立飛行中隊とは、Wikipediaによると「1個飛行中隊で編成され、飛行師団や航空軍に直属する。長は中隊長で少佐・大尉が補職。独立飛行中隊は編制が小規模ゆえに特に機動的に運用された。」…とありまして、例えば戦闘機なら4個中隊編成の戦隊とは別に、一個中隊だけで小回りのきく航空機の部隊として作られた小さな規模の部隊だそうです。

本書の中でも、友軍の飛行戦隊の作戦の支援に参加したり、海軍の指揮下に入り船団護衛についたり、機動的に運用されていた様子が書かれています。

序章はいきなりダンピールの悲劇から。
この戦いに参加した松本少尉の体験記から始まりますが、同氏が所属した飛燕の独飛中隊も船団護衛に参加するものの、、、直掩機として雲霞の如く来襲するA20ハボック攻撃機やP40戦闘機を何機か叩き落とした松本少尉ですが、そんな付け焼き刃では防ぎきれなかった現場の様子が赤裸々に描かれていています。

無惨にも8隻の船団は全滅し護衛艦艇の半数の4隻が沈没しますが、無理なコースと護衛計画に「防げなくて当たり前だろ!」と、無理な作戦に対する直掩戦闘機隊の操縦士目線で書いています。

また、新型機が補充される場面で松本少尉の機体だけ、飛燕の乙型ベースに海軍の20mm機銃・九九式一号銃を試験的に搭載された機体があてがわれ、さらに現地で整備員がさまざまな現地改修を施すカスタム機に改造されます。
これは、中隊で最若手の松本少尉が実は最も腕利きであることを知っていた中隊長の指示によるものでしたが、ドイツ製のマウザー20mm砲を搭載する丙型の登場前に、そのような試験機があったことは大変興味深い記録だと思います。

そして、その後にドイツの柳船で輸入されたマウザー20mm砲がニューギニアの前線基地にも届き、独飛中隊に一門だけ補給されたマウザー砲でしたが、これも松本少尉の機体だけに搭載、現地改修されて丙型に生まれ変わります。
こうした現地改修の様子などもよく分かるところも貴重です。

また、当時、占領地のあちこちに作られた慰安所。ニューギニアのウエワクの街につくられた慰安所に松本少尉は通うんですが、そこで満州以来の馴染みの女性に会って同棲しかける…という、そんな珍しい裏の記憶まで赤裸々に語られています。戦場の裏側の世界まで垣間見える、、、何度も書きますがとても珍しく貴重な戦記なのです。

その後も、ニューギニア戦線で来る日も来る日も迎撃戦闘や敵地侵攻に従事、実はこの松本少尉は腕利きパイロットでした。そのあたりは自伝ではなく、周辺の方々からのインタビューや記録から編者が書いてあるので、本人の記憶からではないところに裏付けられています。
そして、その腕利きの松本少尉の冷静な操縦による手に汗握る激しい空中戦闘の様子が事細かに記されており、、、本当に面白い記録です。

数ある飛行士の自伝や記録のなかでは、この本がピカイチに面白いと思いました。

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