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Stigmaria reticulata
植物化石といえば、代表的なところでロボク、リンボク、フウインボクがよくあげられるが、私はこのうちロボクがあまり好きではなく、よっぽど気に入った標本以外はたぶん買わないと思うので、代りに担根体(Stigmaria)をあげておく。 担根体という言葉からもわかるように、これはリンボクやフウインボクの root system で、丸い乳頭様の部分から根が生えていたらしい。その根の化石は残らないようで、まだ見たことはない。 本種はスティグマリアのうちでもあまり一般的ではない S. reticulata という種で、表面に皺がよっているのが特徴らしい(reticulata は網状になった、の意)。 この標本は大きさのわりに重く、鉄の塊かと思うほどだが、どうやら母岩は siderite(菱鉄鉱)という鉄鉱石らしく、断面は赤味を帯びている。 サイズ:9㎝ほど
Orzeskie Beds PENN Upper Silesia Coal Basin, Polandktr
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Scabriscutellum hammadi
モロッコのスクテルムのうちでも最多産の Scabriscutellum furciferum と同一の種類だと思われる。 頭のてっぺんに小さい突起があるくらいで、ほとんど特殊化しておらず、じつにすっきりした姿形をしている。 私はスクテルムに関しては、縦長よりも幅広のものを好むので、今回のものはその点でもOKだ。 本標本の特異な点として、左目のあたりに付着した卵(?)のようなものと、黒い条のついた輪郭線とが挙げられる。 輪郭線は、自在頬の縁などに顕著だが、それが肋棘も含めた全体にわたって描かれている。 そして黒い条線は中軸を取り囲むような形でも認められる。 いったいこれは何なのか? 卵については、あまり確信はない。 たとえ卵に殻があったとしても、そんなに硬いわけではないだろうし、それが形を保ったまま鉱物に置換されるとも考えにくい。 私としては、卵にみえるものがそれらしい場所に散乱しているという、そのこと自体を楽しみたいと思う(肉眼では確認できないのがまたよい)。 サイズ:45mm
Unknown MDEV Oufaten, Moroccoktr
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Optical Calcite Crystal
和名は方解石。 最初に手に入れた鉱物で、非常に安かった。 大きさは6センチほど。 それなりにしっかりしているが、けっしてカチンコチンではなく、柔らかみがある。 さわってみると、しっとりとした、やや油っぽい手触りがする。 モース硬度は3。 三葉虫の目が方解石でできている、という記述を読んだとき、私はこの方解石の標本を思い浮べた。 石でできた目。 なんとすばらしいのだろう。 とはいっても、この場合カルサイトを方解石と訳すのは、まちがっているわけではないが、あまり適切でもなく、むしろ誤解を招く。 なにしろわれわれにとって方解石のイメージは固定的で、あのマッチ箱をつぶしたような形しか思い浮べられないのだから。 三葉虫の目は炭酸カルシウムでできている、と書いておけば誤解は少なくなるが、まあおもしろみには欠けますね。 ところでこの方解石の内部には、光の加減で虹色が現れる。 方解石に近縁の霰石(アラゴナイト)がアンモナイトなどに遊色の効果を与えていることを思えば、三葉虫の目も虹色に光っていたかもしれない。
Hunan Province, China ヤフオク、個人 2013/5/11ktr
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Pleurotomaria mutabilis var. corrugata
腹足類の化石で「これは!」と思ったのは、本標本が初めてです。 ショップの写真の撮り方もじつによかった。 現物以上に神秘感を漂わせてましたね。 本種の名前、私には初耳でしたけど、保育社の原色化石図鑑によると、「プリゥロトマリアという名前は、日本でも古くから知られ、とくに貝類愛好家の間ではよく通っている」とのこと。 なぜかといえば、かつてはオキナエビス(生きている化石として有名)の仲間がすべてこの名前で呼ばれていたからで、それだけ一般的だったんでしょう。 しかしその後分類が進んで、いまではプレウロトマリアというのはごく限られた種類の貝化石にしか使われておらず、それすら流動的で安定していないようです。 本種ももしかしたら Pyrgotrochus elongatus というのが正しい名前かもしれません。 まあいずれそれがはっきりするまでは、仮にしばらくプレウロトマリアということにしておきましょう。 これを机においてずっと眺めていますが、どうしても貝の化石という実感がわかず、バベルの塔のような建造物のミニチュアにしか見えません。 サイズ:25mm (最後の画像は食玩のバベルの塔)
Unknown MJUR, Dogger, Bajocian Evrecy, Calvados, Francektr
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Angelina sedgwickii
本種の名前を正式に書けば、Angelina sedgwickii Salter in Murchison, 1859 となる。古生物学界の大立者4名(註)にがんじがらめにされたような名前で、そのことからもわかるように、古くから愛好され、研究されてきた古典的な種である。 本種の産出するウェールズは地層の形成が安定していなかったようで、一定方向に引き延ばされた標本をよく見かける。本標本も縦方向に延びているが、それがかえってアンゲリナらしい趣を添えている。原形は、最後にあげた図版(1859年のマーチソンの大著『シルリア』から抜いたもの)を参照してください(2番の図がそれ)。 本種はオレヌス科に属していて、いまのところこれが私の手持の唯一のオレヌス科だが、この科に属するものとしては、ほかにオレヌス・トルンカタ、パラボリナ・スピヌロサ、ペルトゥラ・スカラベオイデスなどがあって、私の関心の的になっている。いずれも英国で産するもので、大きさは1インチ程度、見た目もひどく地味で、こんなものに特別の関心を寄せているのは私くらいではないかと思う。 サイズ:55㎜ (註)スウェーデンのAngelin, 英国の Sedgwick, Salter, Murchison
Sedgwickii Biozone LORD Garth Hill, Minffordd, Wales, UKktr
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Kootenia randolphi
一名 Dorypyge swasii これについてはラボのほうにいろいろと書いたので、もうあまり書くべきことは残っていない。 とにもかくにも私にとっては唯一のドリピゲ科であり、アンゲリンの図と相俟って、コリネキソクスを代表する種となっている。 ドリピゲはオレノイデスと近縁で、たまに混同が見られたりするが、両者はやっぱり別物として扱ったほうがいいのでは、と思う。私はこのあたりまったく詳しくなくて、同じなら同じでべつにかまわないのだが、素人目で見ても、オレノイデスが「大人」の風格を漂わせているのに対し、ドリピゲはどこか子供っぽくて、トゲも含めてなんとなく幼稚な感じがする。簡単にいえば、カッコイイかカワイイかの違いで、前者ならオレノイデス、後者ならドリピゲ、というふうに個人的には考えている。 まったく素人のあてずっぽうで、学的根拠はゼロですが。 サイズ:トゲを含んで50㎜
Wheeler Sh. MCAM Millard County, UT, USAktr
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Remopleurides elongatus
ロシアのレモプレウリデスのうち、従来一般的だった R. nanus に代って、近年市場でよく見かけるようになったもの。以前は Remopleurides nanus elongatus といって、亜種扱いだったが、産地も地層も違うので、別種として立てられたらしい。 私とレモプレウリデスの仲間とのつきあいは、チェコのアンフィトリオンから始まって、オクラホマのロベルギア、そしてロシアの本種と続いてきたが、けっきょくのところこれだけが手許に残ることになった。あとはイギリスほか、いくつか産地はあるけれども、ちゃんとしたものを手に入れるのは至難なので、とりあえずは本標本で満足しようと思う。 さて本標本だが、じゃっかん左右に捩れはあるものの、ほぼ完全に延びきっていて、背中のトゲもわりに危なげなく保存されている。これが防御姿勢をとっていたりすると、トゲが飛び出した格好になって、非常に危なっかしい。好みにもよるけれども、見ていてはらはらするような標本はなるべく避けるようにしている。そういうものからは「癒し」は得られないと思うので。 保護剤(?)のせいでややアーティフィシャルな趣はあるけれども、前にアルティオクルスでやったような、アセトンで剥がすといったことはまったく考えていない。この繊細な三葉虫に対して、それは暴挙というものだろう。 さて写真をとって拡大して眺めてみると、どことなく「タイノエ」とか「ウオノエ」とか呼ばれる寄生虫に似ているような気がしてきた。とにかく、一般的な三葉虫とはかけ離れたフォルムであることだけは確かのようだ。 サイズ:トゲを含んで16㎜
Kukruze level UORD Alexeevka quarry, St.-Petersburg region, Russiaktr
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Deanaspis goldfussi
昨日登録した D. senftenbergi と同時に届いたもの。 こちらは D. goldfussi という種名だが、両者がどう違うのか、まだ調べてみない。 調べてはみないが、おそらくたいした違いはないのではないか、という気がする。 記載はともに古く、前者は1847年にハウレとコルダによって、後者は1846年にバランドによって行われている。 今日では、三葉虫に関心をもっている人なら、Deanaspis といえばチェコ産がすぐに思い浮ぶと思うが、この Deanaspis という属は、もともとはトルコ産に与えられた名前らしく、それがどういう経緯でチェコ産に適用されるようになったのか、そのあたりもいまのところ謎だ。 この標本はややぺしゃんこ気味で、頬棘も失われているが、頭部の縁飾りも含めて、全体がきれいにクリーニングされているので、ルーペで見るとじつに目に快い。 これでもう少しサイズがあり、母岩と本体とのコントラストがはっきりしていたら、なかなかの見物になったと思われる。 本種が属するトリヌクレウス類というのは、頭部に三つの核(というか膨らみ)があるのが特徴で、アサフスに分類されているけれども、むしろハルペス類に近いのではないか、という気がする。 全長:12㎜
Letna Fm. ORD Letna Hill, Prague, Czech Republicktr
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Deanaspis senftenbergi
これは一見価値なきジャンク品にみえるかもしれない。 しかし、私の基準では、けっこう高品位の準完全体に属する。 まずそのサイズ。 トゲを含まずに20㎜というのは、トリヌクレウス類としては十分な大きさだ。 それと、左側の頬棘が保存されていること。 これもまずふつうには見られない。 次に、頭部が立体的に保存されていること。 たいていは頭部がぺしゃんこになっていて、この標本のように突兀として盛り上ってるのはあまり見かけない。 それから最後に、額環の突起(トゲ)の痕跡が残っていること。 この本来的な特徴が、大半の標本では失われて影も形もない。 というわけで、これでもし胸部と尾部とに欠損がなければ、すばらしい見物になったと思われる。 ちょうとケネディ氏の本の表紙を飾っている Whittardolithus のように。 この標本は、石を割っただけで、とくにクリーニングはなされていない。 なので、左側の縁の部分は、母岩の下に埋まったままになっている。 ここをうまくクリーニングできれば、右側と対をなすような構造が露わになると思われるが、私にはそういう技術はないので、これはもうこのままにしておくほかない。 全長:20㎜(トゲ含まず)
Vinické Fm ORD Židice, Czech Republicktr
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Eodiscus punctatus
アグノストゥスと三葉虫との中間的存在としてその名前だけは知っていたが、なかなか現物を目にする機会がなく、今回たまたまネットで見かけたので買ってみた。 特徴はといえば、とにかく小さくて地味。 しかしその形はアグノストゥスよりもかなり三葉虫に近い。 保存は意外とよくて、全体の形を明瞭に観察することができる。 これの仲間を広く集めようという気にはならないが、サンプル的にひとつもっていてもいいし、三葉虫愛好家ならばひとつはもっておくべき種類のような気がする。 全長:4mm
Menevian Series of St. Davids MCAM Dyfed, South Wales, UKktr
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Eldredgeops rana
北米デボン紀を代表する一般種で、たいていの図鑑に載っている。 旧称は Phacops rana rana。 親しみをこめてラナラナなどと呼ぶこともあるが、それが通じなくなる時代もそう遠い先ではないだろう。 名称の変遷 1832年、Jacob Green が Calymene bufo var. rana として記載 1888年、James Hall と John M. Clarke が Phacops rana として記載 1927年、Grace Anne Stewart が亜種 milleri を記載 1953年、Erwin Stumm が crassituberculata, norwoodensis ほか5亜種を記載 1972年、上記の業績をふまえて Niles Eldredge が画期的(?)論文を発表 1990年、その功績を称えて W. Struve が Phacops rana rana を Eldredgeops rana と改称 こういう流れなので、かつて亜種扱いだった milleri, crassituberculata, norwoodensis などがそれぞれ種へと繰り上げられて、たとえば Phacops rana milleri は Eldredgeops milleri となった。 Eldredgeops が Phacops rana の言い換えなので、Eldredgeops rana milleri とはいわないのがふつうだし、理屈にも合っている。 全長:34mm
Moscow Fm. MDEV Hamburg, NY, USAktr
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Placoparia tournemini
本種はイベリア半島一帯で広く産出する。 近縁種まで含めれば、チェコや英国、さらにモロッコでも多産するので、かなりの成功を収めた種類だといえる。 体制も一風変っていて、カクカクした感じの肋のある胸部や、弧を描くように丸まった尾部のトゲ、顆粒に覆われた目のない頭部など、一目でそれとわかるほど特徴的だ。 今回手に入れた標本は、小さいけれども色合いや質感がシックで、フランス産の美点がよく出ているように思う。 全長:22mm
Traveusot Fm. MORD La Dominelais, Britany, Francektr
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Cnemidopyge nuda
ラフィオフォルスの仲間をひとつも持っていないので、たまたま見かけた本種を購入。 もちろんそれには値段が安いとか、英国産であるとか、そういう理由もあった。 ラフィオフォルス類というのは、アサフスに分類されているけれども、底棲ではなく遊泳性で、そのフォルムも小型のエイのようだ。 三葉虫は「海の蝶」と呼ばれることがあるが、おそらくこの仲間がいちばん蝶に似ているように思う(註)。 遊泳性の三葉虫は、キクロピゲのように極端に目が大きいのもあれば、本種のように目がないものもある。 目がなくても、3本のトゲや触角を駆使して、たくみに敵をよけながら泳いでいたと思われる。 この標本は頭部前方のトゲだけ保存されているが、よく見ると(心の目で見ると?)左右の頬棘も保存されているような気がしないでもない。 全長:30mm(トゲ含まず) (註) 三葉虫が海の蝶と呼ばれるのは、本来的にはその尾板の形に由来すると思う。 中国の王冠虫の尾板等を参照のこと。
Hastsgraptus Tereticulus biozone LORD Pencerig Builth Wells, Powys, Walesktr
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Redlichia chinensis
レドリキアは中国のほかオーストラリアでも産出するようだが、このシネンシスがもっとも一般的であるのはまず間違いない。 オレネルスと並んで、最古の三葉虫のひとつ。 この標本は、届いたときはおそろしく汚れていて、とりあえず水洗いから始めなければならなかった。 しかし、洗い浄めてみると、なかなか魅力的な標本だということがわかった。 いまでは北米のオレネルス、欧州のパラドキシデスと並んで、私のコレクションにおけるレドリキア目の三本柱のひとつとなっている。 本種の産地は不明だが、素人のあてずっぽうでいうと、湖南省の Balang Fm. から出たもののような気がする。 Balang Fm. は湖南と貴州の両方に露頭があるらしく、カンブリア紀前期の地層として知られている。 ちなみに本種の中国名は、「中華萊得利基蟲」という(旧漢字表記)。 中国語でどう発音するのか、聞いてみたい。 全長:50mm
Unknown LCAM Chinaktr
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Inzeria intia
現在のところ、市場に出回るストロマトライトの大半はオーストラリア産ではないかと思う。 オーストラリア産のものはどれもカラフルで美しい。 さまざまな種類があるなかで、私がサンプル的に選んだのはインゼリアという名前のもの。 見た目のおもしろさと価格に惹かれて購入した。 これはストロマトライトの一部を鏡面研磨したもので、層状になった構造がよくわかる反面、どうもあまりきれいすぎて、化石標本ならではのリアリティに欠けている。 化石というのはもっと野暮ったく、ごつごつしていて、あえていえば野放図なものだから。 まあ、そういう無いものねだりを差っ引けば、今回のサンプルはけっこういい線を行ってると思う。 サイズ:60x40mm (付記) 前にLabログにちょっと書いたモロッコ産のお椀のような贋ストロマトライトは、ケルコウブ(Kerkoub)という名前がついているらしい。 また、モロッコでは贋ストロマトライトならぬ真正のストロマトライトも産出するらしいが、市場に出回っているかどうかは不明。
Bitter Springs Fm. Proterozoic 800 MYO Alice Springs, Northern Territory, Australiaktr
