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鉱物標本 カバンサイト(Cavansite)
別名:カバンシ石 産地:India 小さな柱状の結晶が放射状に集まることでロゼット状の晶癖をとる、カルシウムとバナジウムを含む青~青緑色のケイ酸塩鉱物。様々なゼオライト鉱物とともに玄武岩や安山岩中に産出する。 1960年代にアメリカ、オレゴン州Malheur郡のOwyhee湖州立公園内にあるOwyheeダム付近で小さなカバンサイトが最初に発見され、1973年に報告された。翌年にインドでより大きな結晶が発見されたもののそれ以降は確認されず、幻の鉱物と言われてきた。しかし、1980年代にインドのMaharashtra州Punaで晶洞が発見されてからは希少であるものの鉱物標本として広く流通するようになった。 Puneはデカン・トラップと呼ばれる6700~6500万年前の白亜紀後期のマグマ噴出で形成された巨大な玄武岩台地により覆われるデカン高原に位置する。鉱物も多く産出し、グリーンアポフィライト(魚眼石)やオケナイト(オーケン石)が有名である。因みにPune産のカバンサイトは非常にその土地のバナジウム濃度が高いためか、オレゴン産に比べて青みが強いのが特徴であるらしい。 名前の由来は非常に安直で、カルシウム("ca"lcium)とバナジウム("van"adium)とシリカ("si"lica)から成る鉱物であることに因む。 同じ組成で多形関係にある鉱物としてペンタゴナイト(pentagonite)(*1)が存在するが、その違いについて2009年に東京理科大准教授の石田直哉らはペンタゴナイトの組成がCa(VO)(Si4O10)・(H2O)4であるのに対してカバンサイトの組成はCa(VO)(Si4O10)・(H2O)4-2x (H3O)x (OH)xがより正確であろうことを示している。このことから石田らはペンタゴナイトが300℃以上の超臨界状態の熱水中にて生成されるのに対し、カバンサイトは低温の熱水環境下で生成されることを示唆した。 本標本は2010年代に科博の売店で購入。10mm弱の金平糖のような形状をとっている。拡大して観察すると小さな柱状結晶も確認できる。産地はインドとしか記述がないがPune産と思われる。 *1:ペンタゴナイト →鉱物標本 ペンタゴナイト(Pentagonite)
鉱物標本 3~4 ガラス光沢たじ
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鉱物標本 ラピスラズリ(Lapis Lazuli)
別名:瑠璃、群青 産地:Afghanistan ラズライト(青金石)を主成分(25~40%)としたソーダライト(方ソーダ石)・アウイン(藍方石)・ノゼアン(黝方石)などの方ソーダ石グループの青色鉱物の固溶体に、白色のカルサイト(方解石)や金色のパイライト(黄鉄鉱)が斑に散ることで、夜の星空の様な色彩を呈する半貴石である。日本では9月と12月の誕生石とされることがある。 ラピスラズリは接触変成作用にて結晶性石灰岩のスカルン中などに生成する鉱物だが、普通のスカルンと異なり硫黄、塩素などの特殊な元素を必要とする他、高温、低珪酸分といった特殊な条件が必要となるため、ラピスラズリの産地は世界的に少ない。 そも青色の由来自体がラズライトに含まれる不対電子を有するトリスルフィドアニオンラジカル(チオゾニド、[S3]・-)の電子遷移による光吸収によって生じるものだが、自然条件下ではチオゾニドは空気中の酸素と即座に反応・分解するため安定して存在できない。ラピスラズリは上記の特殊な地質条件により、このチオゾニドがケイ酸アルミの結晶格子の篭に閉じ込められていることで奇跡的に安定して存在しているのである。これがソーダライトの場合は塩素イオンが、アウインならば硫酸イオンがケイ酸アルミの篭の中に閉じ込められている。 この構造のため、ラピスラズリは耐薬性(酸)に弱く、塩酸などに浸けるとケイ酸アルミの篭が壊れて中のチオゾニドは硫化水素になってしまい、鮮やかな青色から無惨な灰色へと変わってしまう。 この青色は古くから人々を虜にし、人類に認知され利用された鉱物としては歴史上最古のものとも言われている。現在のアフガニスタンのバダフシャーン州にあるSar-i Sang鉱山で発見されたこの鉱物は世界各地に輸出され古代シュメール文明のウルのスタンダードや古代エジプトのツタンカーメンの黄金のマスクにも用いられた。 因みにラピスラズリのラピス"lapis"はラテン語の『石』を意味する言葉だが、ラズリはSar-i Sang鉱山の古名である"lazhward"が起源とされている。それがアラビア語に入って蒼穹を意味する "lazward"に転じ、最終的に『群青の空の石』ラピスラズリ (lapis lazuli) となった。 古代ギリシャにおいては青石"sappir"の語が示していたのはサファイアではなくラピスラズリの方であるという説があり、この説の通りならば旧約聖書でモーセがシナイ山にて、神より授かった契約の石版もラピスラズリではないかといわれている。 また日本では、ラピスラズリは瑠璃と呼ばれ、仏教の七宝の一つとしてシルクロードを通じて日本にもたらされた。 鉱物そのものだけでなく、その粉についても6~7世紀頃から最初の鉱物顔料としてアフガニスタンで利用され始め、16世紀初頭にヨーロッパへ輸入される様になってからは『地中海を越えてきた青』という意味のウルトラマリン(azzuro ultramarino)の名前で当時最も高価な顔料として用いられた。 余談であるがアズライトの顔料は逆に『地中海のこちら側の青』を意味する"azzuro citramarino"と呼ばれた(*1)。 2010年代に科博にて購入。 *1:アズライト →鉱物標本 アズライト(Azurite)
鉱物標本 5~5.5 ガラス光沢~亜ガラス光沢、樹脂光沢、脂肪光沢、鈍光沢たじ
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鉱物標本 カーネリアン(Carnelian)
別名:紅玉髄 産地:India 石英の変種であるカルセドニー(玉髄)の中でも含有する水酸化鉄により赤色に発色したもの。サードニクス(紅縞瑪瑙)ほど縞模様が強くなく、レッドジャスパー(赤碧玉)ほど不透明ではない(*1)。古くは古代エジプトの装飾品としても利用されてきた。 語源についてはwikiにはその色からラテン語で肉を意味する"carnis"に因むと記載されているが、他の文献でセイヨウサンシュユ("Cornelian" Cherry)の赤い実に由来するとの記述もあった。こちら実の場合であってもその語源は"carnis"だと思うのでwikiの情報は間違ってはいないと思う。 2010年代に科博の売店で購入。産地はインドとしか記載がないが、カルセドニー産地であるグジャラート州辺りかなと思ってる。 *1:レッドジャスパー →鉱物標本 レッドジャスパー自主採集/研磨品(Red Jasper)
鉱物標本 6.5~7 蝋光沢、樹脂光沢たじ
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鉱物標本 ジェダイト(Jadeite)
別名:翡翠輝石、硬玉、硬玉翡翠 産地:Myanmar 深緑の半透明な宝石の一つである翡翠は紀元前の古代中国や古代中南米で既に装飾品として用いられてきた。現在では翡翠(jade)という言葉は上記の緑色半透明の玉石全般を示しており、鉱物学的にはジェダイト(硬玉)とネフライト(軟玉)に大きく分類される。それ以外ではインド翡翠と呼ばれものはグリーンアベンチュリンであったり、アマゾナイト(*1)、蛇紋石、緑碧玉等でも~翡翠と呼称されたりする。 ジェダイトは輝石グループに属する鉱物で、他の輝石グループの鉱物と固溶体を形成する性質を有する。そのため、本来のジェダイト(NaAlSi2O6)は白色(無色透明)なのだが、Al3+がFe3+になると黒色のエジリンに、同じくAl3+がCr3+になると深緑色のコスモクロアに分類される様になる(画像7枚目)。また、ジェダイトの(NaAl)4+の組み合わせが(Ca,Mg,Fe)2 4+に置き換わると有色のその他輝石類諸々に分類される様になり、その中間状態の組成のものはオンファサイトという輝石に分類される。翡翠というと深緑色のものを想像するが、それはFe2+やCr3+に起因する発色のためジェダイトではなくオンファサイトまたはコスモクロアに分類されるのである。本標本の場合はベースが白色(無色透明)なので分類はジェダイトで問題ないと思われる。 ジェダイトは海洋プレートの沈み込み等の超高圧低圧の条件下(300℃以上、1万気圧)にて火成岩中のアルバイト(曹長石)が ・NaAlSi3O8 → NaAlSi2O6 + SiO2 の様に分化変成して生成されると考えられている。他にも熱水から直接析出する場合もあるそうであるが、いずれも条件がシビアなため産出地は世界でも限られている。 2010年代頃に科博の売店で購入。国内では糸魚川産のものが有名だが、本標本はミャンマー産の恐らくカチン高原で採れたもので、世界の翡翠シェアの9割を占めている。ここのジェダイトは白亜紀後期のオフィオライト帯(プレート沈み込みや大陸衝突などで海洋地殻の上層から深層まで丸ごと乗り上げた岩体)に由来する蛇紋岩から見つかる。 *1:アマゾナイト →鉱物標本 アマゾナイト(Amazonite)
鉱物標本 6.5~7 ガラス光沢、蝋光沢、鈍光沢たじ
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鉱物標本 アマゾナイト(Amazonite)
別名:天河石 産地:Brazil 長石グループの微斜長石と呼ばれる鉱物の変種。その空の様な青緑色は含有する一酸化鉛(PbO 1%前後)によるものとされているが、他にも鉄(Ⅱ)やルビジウム、タンタル等との複合的な影響についても報告されている。また熱に弱く、300℃を越えると失色する。 この鉱物自体は古代エジプトで既に宝飾品として用いられていた。アマゾナイトとしての名前はヨーロッパの宝石商がブラジルでこの石を入手した際にアマゾン川流域で採れた青い石と混同して売り出したことに由来し、1700年頃には"Pierre des Amazones"(アマゾンの石)という名で記録されている。その後アマゾン川流域にはアマゾナイトが産出しないことがわかったものの、1847年にドイツの鉱物学者Johann Friedrich August Breithauptにより"Amazonite"と正式に命名された。 因みにヨーロッパ人が初めてアマゾン川に到達したのは西暦1500年。その時はマーレ・ドゥルセという名が付けられた。現在のアマゾンという名前の正確な由来は良くわかっていないが、1542年アマゾン川流域を探検していたスペイン人達が地元の女性戦士に襲われたことから、ギリシャ神話の女性のみの狩猟部族であるアマゾネスを連想して"amazonas"の名前が付けられたという説が有力である。 本標本は2010年代に科博の売店で購入。
鉱物標本 6~6.5 ガラス光沢たじ
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鉱物標本 アズライト(Azurite)
別名:藍銅鉱、紺青、mountain blue 産地:Morocco ラピスラズリやラズライト同様に古代ペルシャ語で蒼穹を意味する"lazhward"が語源。1824年にFrançois Sulpice Beudantによって鉱物名が"azurite"へと正式に変更された。 マラカイトと同様にCu2+からなる塩基性炭酸塩銅であり、d-d遷移によって緑~青色を呈するCu2+塩の中でも特に深い青色を示す。そのため古くから世界各地で青色顔料として用いられ、プルシャンブルーが人工合成されて江戸時代に日本に輸入されるまでは日本でも紺青の名前で利用されていた。 組成式から分かる通り、マラカイトよりも若干炭酸リッチであり、その差は生成条件の違いであり、マラカイトが炭酸カルシウム等から供給されるアルカリ条件下で生成するのに対し、アズライトはアルカリ分が減ってCO2リッチになった弱酸性~弱アルカリ条件下で生成する。そのためアズライトはマラカイトよりも希産であり、かつマラカイトと共に産出する傾向が多い。顔料として利用する場合はマラカイトと選り分ける手間がかかるため、より希少となった。因みにアズライトとマラカイトが一緒になったものはアズロマラカイトと呼ばれ、共産鉱物として有名である。 2010年代、科博にて購入。
鉱物標本 3.5~4 ガラス光沢たじ
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鉱物標本 ルビー(Ruby)
別名:紅玉、Anthrax 産地:India おそらくダイヤモンドの次に有名だろう宝石で7月の誕生石。コランダムの変種であり、モース硬度もダイヤモンドに次ぐ9という硬さ。 この赤い宝石は古く青銅器時代から認知されており、古代ギリシャでは"ἄνθραξ"、古代ローマでは"carbunclus"とどちらも赤く燃える石炭に例えられた。因みに真紅の宝石を額に持つ幻獣カーバンクルの名もこの言葉から来ている。 実際にルビーの名前が用いられるようになったのは中世になってからで、その語源もラテン語で赤を意味する"rubeus"である。 その赤色はドーパントとしてAl3+がCr3+に置き換わることで発色する。ただし混入量が少なすぎると薄赤色のピンクサファイアに分類されてしまい、多すぎると今度は黒灰色になってしまい、その硬さを利用したエメリーという研磨剤扱いになってしまう。そのためルビーがそう呼称されるためのクロム含有量は0.1%<Cr2O3<3.0%とかなりシビアなため、天然物が貴重となる。 また、ルビー内のCr3+の内殻励起吸収帯は紫色と黄緑色にあるため、緑色レーザーを当てると赤く発光する他、UVでも赤色の蛍光が見られる。ただしこれは"純粋な"ルビーの場合で、鉄分が混入しているものは打ち消されてしまって蛍光を見ることができない。そのため玄武岩や変成岩中に産出するものよりも大理石中から見つかったものの方が蛍光が出やすいと思う。 2010年代に科博の売店で購入。最近購入したそこそこ高めのUVライトでようやく蛍光が見れた。
鉱物標本 9 亜金剛光沢、ガラス光沢、真珠光沢たじ
