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鉱物標本 パイロモルファイト(Pyromorphite)
別名:緑鉛鉱 産地:Daoping Mine, Gongcheng Co., Guilin, Guangxi, China 主に緑色から黄色がかった樽型の六角柱結晶として産出する鉛の鉱物。同じ鉛鉱物であるミメタイト(*1)、バナディナイト(*2)とは固溶体を形成し、Bakerによって完全な系列(同構造)にあることが合成により示された。 鉛鉱床中で方鉛鉱等の酸化によって二次鉱物として酸化帯に生成する。 元々は1748年にJohan GottschalkによってGrön BlyspatやMinera plumbi viridisと呼称され、1753年にMine de plumbi viridisの名が用いられた。1761年にドイツ人のChristian Friedrich Schultzeによる記述でGrünbleierzおよびBraunbleierzの名が用いられ、1791にはAbraham Gottlob Wernerもその名を用いた。 1813年に加熱溶融後に冷却すると結晶する様子からJohan Friedrich Ludwig Hausmannによってギリシャ語の火(pyr)と形成(morph)という言葉から現在主に用いられているPyromorphiteという名が命名された。ただHausmannはTraubenbleiの名称も同年に用いている。 それ以外にも1832年にAugust BreithauptがPolysphaerite、1836年にG. BarruelがNuissierite、1841年に再びAugust BreithauptがMiesite、1857年にCharles U. ShepardがCherokine、1863年に再度August BreithauptがPlumbeineとSexagulitを、1927年にRobert BrownがCollieiteの名を導入している。 本標本は2021年6月にミネラルマルシェにて購入。緑色の六角柱をベースに上に向かってラッパ状に広がっている。 *1:ミメタイト →鉱物標本 ミメタイト(Mimetite) *2:バナディナイト →鉱物標本 バナディナイト(Vanadinite)
鉱物標本 3.5~4 亜ガラス光沢、樹脂光沢、蝋光沢、脂肪光沢たじ
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鉱物標本 キャストライト(Chiastolite)
別名:空晶石、Crusite、Lapis Crucifer、Macle、Maltesite、Cross-stone 産地:中国 双晶になった薄紅色のアンダルサイト(紅柱石)の隙間をグラファイトのインクルージョンが埋めることで、黒の十字模様が断面に現れる鉱物。分類としてはアンダルサイトの変種になる。 アンダルサイトには同じ化学組成ながら、結晶構造の異なる鉱物が存在し、高圧条件ではカイヤナイト(藍晶石)が、高温条件ではシリマナイト(珪線石)が生成される。 アンダルサイト(キャストライト)の場合は低圧(400MPa以下)および中温(約300℃~650℃)の条件で粘土質堆積物がマグマの貫入による接触変成作用を受けて出来た泥質紅柱石ホルンフェルス中に生成する。さらに双晶生成時に堆積物中の有機物を由来とするグラファイトをインクルージョンとして取り込むとキャストライトとなる。 この鉱物に関する最初の記述はスペインのフランシスコ会宣教師であり、古生物学者でもあったJosé Torrubiaが1754年に出版したスペインで最初の古生物学論文とされる"Aparato para la Historia Natural Española"(直訳すると『スペインの博物学のための装置』)に記されたもので、イラストとともに載せられていたそうである。 "Chiastolite" の名前はグラファイトのインクルージョンによる十字の模様に因んで、ギリシャ語で「直交する線」を意味する "chiastos" から命名された。 その十字模様からキリスト教では守護石とされたこともあり、ラピス・クルシファーやクロスストーン、マルテサイト(マルタ石)などの『十字架』に因んだ別名も付けられている。 本標本は2021年5月にミネラルマルシェで購入した研磨品。
鉱物標本 6.5~7.5 ガラス光沢~亜ガラス光沢、脂肪光沢たじ
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鉱物標本 ロードクロサイト(Rhodochrosite)
別名:菱マンガン鉱、Inca Rose、Rosa del Inca、Rosinca、Alma Rose 産地:広西チワン族自治区, 中国 産地によって菱形や犬牙状の結晶から層状、鍾乳石状、ブドウ状まで様々な形態と、ピンクや赤色、バラ色、シナモン色、褐色など、色彩のバリエーションも豊富なマンガンの炭酸塩鉱物。同じ炭酸塩鉱物であるカルサイト(CaCO3)やシデライト(FeCO3)とは固溶体を形成する。 1813年に現在のCavnic, Maramures, RomaniaにあるCavnic銀鉱山から産出したサンプルについてJohann Friedrich Ludwig Hausmannによってそのバラ色"rhodochros"から命名された。 堆積岩や変性岩の低温~中温鉱床の亀裂に地下の熱水脈から上昇してきた熱水溶液の沈降や、含マンガン鉱床の変性接触交代などで形成され、マンガンケイ酸塩のロードナイトなどと共に産出する。特に、熱水脈から生成したものは菱形の結晶として産出しやすい。 宝石としては断面の縞模様がバラの花びらの様に見えるインカローズ(inca rose)が特に有名である。こちらは13世紀頃のインカ帝国の銀・銅鉱山で採掘がされていたが、帝国の滅亡と共にその存在も忘れ去られてしまった。その後1920~1930年代に再発見されたことで1940年代頃からアメリカを中心に収集家の間で取引されるようになった。 日本でも銀山などでよく産出し、不純物を多量に含んだ褐色のものはその色合いから鰹節鉱などと呼ばれる。青森県、白神山地の既に閉山している尾太鉱山でかつて産出していたピンク色のブドウ状(腎臓状)標本は国産品としては特に良質とそれ、今日でも当時のものが取引されている。 中国の広西省のロードクロサイトは本標本のような薄桃色の菱形結晶の標本が多く、同じ炭酸塩のカルサイトの結晶と形状が非常に近い。 見た目の似た鉱物としてロードナイトやパイロクスマンガイト(*1)があるが、両者がケイ酸塩鉱物であるのに対してロードクロサイトは炭酸塩鉱物のため、希塩酸に浸けると前者はそのまま溶解していくのに対して後者は発泡しながら溶解する違いで見分けられる。 また、ロードクロサイトの方が酸化しやすく、表面に褐色の酸化皮膜ができて黒色化してしまいやすい。 2019年、ミネラルフェスタin東京にて瓶詰めで売られていたものを購入。 *1パイロクスマンガイト →鉱物標本 パイロクスマンガイト(Pyroxmangite)
鉱物標本 3.5~4 ガラス光沢、真珠光沢たじ
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人工鉱物 キュービックジルコニア(Cubic Zirconia)
別名:立方晶ジルコニア, CZ 産地:中国 高い透明性からダイアモンドの模造品として用いられる二酸化ジルコニウム(ZrO2、ジルコニア)の結晶。 本来、ジルコニアは常温常圧下では単斜晶系が安定しており、天然では1892年にバッデレイアイト(Baddeleyite)として存在していることが発見されている。この単斜晶系のジルコニアは1170℃で正方晶、2370℃で立方晶、2750℃で溶融することが知られており、常温でも立方晶で安定させる方法が研究され、1929年に希土類酸化物の酸化イットリウムや酸化カルシウム、酸化マグネシウムなどをジルコニアに添加して固溶体にすることで結晶格子中に酸素空孔が形成され、常温でも正方晶や立方晶で安定することが発見された。 その後、1973年に安定化立方晶ジルコニア(CZ)の合成技術をソビエトの科学アカデミーLebedev物理学研究所(FIAN)が完成させ、その3年後から研究所の名前を取ってFianitという宝石名で商業生産される様になった。 酸化イットリウムの添加量が2.5~5%で部分安定化ジルコニア(PSZ)になり、8~40%で単相立方晶になるため、通常は5~10%くらい添加されている。 CZの特徴として屈折率が2.15~2.18と、ダイヤモンドの2.42に非常に近い高屈折率を有し、分散はダイヤの0.044に対してCZが0.058~0.066で高い光分散性を有する。逆にダイヤモンドとの大きな違いとして比重がダイヤの1.65倍であることや、ダイヤが熱伝導性に対してCZは断熱性であることが挙げられる。 2021年5月、ミネラルマルシェで購入。
人工結晶 宝石 鉱物標本 8~8.5たじ
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鉱物標本 シアノトリカイト(Cyanotrichite)
別名:青針銅鉱、青毛鉱、Velvet Copper Ore 産地:中国、貴州省 青色の針状結晶が特徴の銅鉱物。その毛髪状の結晶から名前もギリシャ語の藍色の"κυανός"+毛髪"θρίξ"から付けられ、和名も同様である。ただ本標本は塊状で産出しており毛髪状結晶は見られない。 シアノトリカイトは水酸硫酸塩鉱物であるが、硫酸の一部が炭酸に変わったカーボネートシアノトリカイトが存在し、現状ではXRD(X線結晶構造解析)以外の方法で両者を判別することが出来ない。そも、標本として出回っているものの多くがカーボネートの方であるとの話もある。カーボネートについては完全に炭酸塩に置換したものが存在する可能性や固溶体を形成するかはっきりしたことが判明していない等、未だ分かっていない事が多い。 本標本は中国貴州省産と記載されていたので恐らく黔西南プイ族ミャオ族自治州、晴隆県、大廠アンチモン鉱石地帯にある晴隆鉱山(大廠鉱山)で採掘されたものではないかと個人的に思っている。同地から採掘された他の標本から本標本の白色~透明部はジプサム(石膏)であると思われる。 2020年、ミネラルマルシェで購入。
鉱物標本 1~3 絹糸光沢たじ
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鉱物標本 合成ダイヤモンド(Diamond)
別名:金剛石、алма́з 産地:China 炭素元素からなる天然で最も硬いとされる物質で、モース硬度は最硬の10。同じC元素からなる同素体にグラファイト(黒鉛)があるが、こちらは共鳴した炭素のシートが分子間力で積層した構造を取り、エネルギー的にもダイヤモンドより安定である。そのため通常の大気圧条件ではこちらが炭素の単体として生成される。対してダイヤモンドは共有結合による四面体配列の構造を取っており、グラファイトよりも密な構造となるため生成される条件も超高圧を要する。 語源はギリシャ語の"αδάμας"(屈しない)である。西暦100年頃には小プリニウスらによって記述されているのは確認されている。 ダイヤモンドが見つかる母岩はキンバーライト(雲母橄欖岩)と呼ばれる超塩基性の火成岩である。この岩石は先カンブリア時代の世界的な造山運動にて、地下120kmにあるマントル物質が激しい噴火によってごく短時間のうちに地表付近まで噴出したことで生成された。噴出後も数十億年単位でその先カンブリア時代の地質が保存されていなければならず、そのためキンバーライトが存在する場所は安定陸塊と呼ばれる地球上でも地殻変動が非常に少ない場所に限られる。ダイヤモンドの結晶はそんなマントルという超高温高圧の特殊条件だからこそ出来たものであり、更に地表へと急速に噴出され、かつその地質が維持されるという希少条件が揃うことで初めて見つかったものである。 この条件を工業的に再現したのが高温高圧法(High Pressure and High Temperature, HPHT)で、1955年にアメリカのゼネラル・エレクトリック社(GE社)が合成ダイヤモンドの製造に成功させた。この方法によって宝飾品用だけでなく、研磨剤用のダイヤも工業的に量産出来るようになった。他にも化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition, CVD)と呼ばれる合成方法もあるが、本標本はHPHT法によるものである。 また、ダイヤモンドはその四面体構造に組み込まれる不純物によって窒素を含むⅠ型と含まないⅡ型に分類される。Ⅰ型は更に無色に近いⅠa型と黄色の濃いⅠb型に、Ⅱ型は不純物を全く含まない無色のⅡa型と窒素以外の不純物を含むⅡb型に分けられる。特にホウ素を含むⅡb型は青色を示して天然では希少性が高い。本標本は濃黄色のため、Ⅰb型のダイヤに相当する。 2019年にミネラルフェスタで購入。拡大観察してみると正八面体の各頂点が削れた14面の立方八面体に近い形状になっていることが確認できた。
鉱物、人工結晶 10 金剛光沢、脂肪光沢たじ
