発靴(発掘)、世界ふしぎ発見!~ 1930年代「マックスウェル遺跡」
初版 2024/02/26 14:18
改訂 2024/04/09 13:00
オークションサイトをボーッと見ていると、時々とんでもなく悲惨なコンディションの靴に遭遇することがあります。まずほとんどの方が「捨てられたガラクタ」と思うもの、そんな靴に私は性懲りもなく手を出しては撃沈します。いわゆる「毒まんじゅうを食った」訳です。その中で毒に当たらなかった類い希なる「毒まんじゅう靴」をご紹介します。
それがこちら、数年前に3200円で購入した1930年代の製作とおぼしきマックスウェルのビスポークセミブローグです。靴墨の厚塗りと汚れの被膜で、メダリオンがどんなものかもわからない惨状でした。スポンジ付きのリキッド靴墨を使い続けるとしばしば起こる現象です。こうなると革にニスを塗って「皮膚呼吸を完全に留めた」ような状態になり、使用後靴内部の湿気が全く抜けなくなります。あっと言う間に革が傷みますので、リキッド靴墨は絶対に使わないことを皆さんにはおすすめします。
爪先にはメダリオンがあるはずなのですが、適当な穴がおぼろげに開いている感じがするだけです。
光っていると「この状態が良い」と錯覚してしまいますが、これは「最悪のコンディション」です。
ヒール上部のうっすら皺の入っている状態が、この靴の望ましい革の姿です。
ヒールに金属性のチップが充てられていますが、ソールも草臥れています。
一見して「相当な重症患者」ということが分かりますが、あわてて古いワックスを除去すると革の表面も痛み、亀裂も入りやすくなります。
そこで最初はサフィールのレノマットリムーバーを使用しました。この商品はかなり強力な汚れ落としなので私は滅多に使いませんが、このような「ワックスが強力に硬化したような」靴の場合、最初のとっかかりとしてこのリムーバーを使います。表面のガチガチになったワックスを少しだけ柔らかくするためですので殆ど擦りません。汚れを落とそうとして革の表面をゴシゴシ擦ってしまうと、銀面(革の表面)が荒れてしまうことがあるので使用量はごく少な目にします。
この後はレザーバームに移行し、のんびり何度かこの液体を塗って優しく革を拭き上げます。良い革ならかなりの確率で復活することができます。
ほぼ一週間かけて発掘作業(復旧)を行った結果がこの状態です。
ソールは比較的薄く、ウィールの目付もはっきりしています。コバはあまり張っていません。カーフはやはり肌理が細かく大変良質です。カンヌキ留めも丁寧ですね。長く履いても革が柔らかくソールがしっかりしているので疲れません。
非常にスマートな木型であることが分かります。
作業が終わると「メダリオン、こんな形だったんだ」とようやく分かりました。例の如くメダリオンの小穴の汚れは爪楊枝で処理しています。セミスクエァのトゥシェイプが非常に格好いいです。
大変古いマックスウェルのロゴ。横長で住所は「ドーバー・ストリート」になっています
「ずたぼろ靴の復旧」は上手くいくと、まるで吉村先生のエジプト遺跡発掘くらいに刺激的な結果を生むことがあり、私はなかなか足を洗えません(笑)。
1990年3月に行ったロンドンで、初めてエドワードグリーンのドーバーを購入しました。以来、ここの靴の虜になりました。質の良いしっとりとしたカーフ、美しい木型、無い物ねだりと分かりながら、この時代のエドワードグリーンの靴を今も追い求めてしまいます。
他に古い靴も修理して履いています。特に戦前の英国靴は素晴らしいと実感しています。
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