ただひたすらに美しい。スイスの筆記具ブランド「カランダッシュ」

ただひたすらに美しい。スイスの筆記具ブランド「カランダッシュ」_image

文/倉野路凡
写真/佐々木 孝憲

世界中にファンを有するスイス生まれの筆記具ブランド「カランダッシュ」。服飾ジャーナリスト・倉野路凡さんもカランダッシュに心奪われたファンのひとり。今回は愛用しているボールペン、万年筆、そして色鉛筆について紹介してもらった。

スイスの精密工芸の結晶

スイスらしい精密工芸の技術をみごとに反映させたのが、カランダッシュの筆記具だ。

ロシア語で「鉛筆」を意味するカランダッシュは1915年ジュネーヴにて鉛筆会社としてスタート。1929年に自動給芯機能をもち合わせた世界初の金属製ペンシル「フィックスペンシル」、1934年にシルバーに手彫り模様を施した「エクリドール」のメカニカルペンシル、1953年には「エクリドール」のボールペンを発売している。

MuuseoSquareイメージ

さて、ボクが最初に購入したのが「レマン コレクション」の万年筆。次いで同ラインのローラーボールだ。スイスとフランスにまたがるレマン湖をイメージしてデザインされた「レマン コレクション」は前身の「ジュネーブ コレクション」の後継種として誕生し、カランダッシュの技術の粋を集めたコレクションとして現在も人気が高い。

★レマンコレクションとは★

1997年、創立75周年を記念して新しく誕生したコレクションで、現在まで続くロングセラーだ。「ジュネーブ コレクション」のデザインの流れを汲むことは明らかで、クリップはエペから現在の形状に変更されている。発売当時の価格は万年筆4万5000円。(倉野談)

★ジュネーブコレクションとは★

正確にはわからないが1994年頃から展開していたコレクションで、ジュネーブの熟練職人によって1本1本丹念に作られている。ボディのラッカー仕上げも非常に丁寧だ。発売当時の価格は万年筆4万円。グリップがエペ(剣)に似ているのが特徴。「レマン コレクション」の前身モデルと考えられている(倉野談)

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手に取ってみると金属ベースのため重量感がある。

コンバーターを取り出そうと首軸を回すと、ねじが長く刻まれているため、なかなか外れない。それだけねじ切り加工の技術が高く、胴軸内に密閉性があるということだ。このようにねじ一つ見てもスイスの精密工芸品らしさを感じさせてくれる。ここまで精緻に作り込んでいるブランドは少ないと思う。

しかも、ラッカー塗装(無色透明のコーティング溶剤で磨き上げると光沢と独特の深みが出る)が丁寧で美しいのだ。ボクがカランダッシュに惹かれるのはこの作りの素晴らしさなのだ。

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「エクリドール」の廉価版的なデザインで人気の「849コレクション」も愛用していた。ちなみにこの「849コレクション」も以前は「エクリドール」と呼ばれていた。価格もお手頃なので高級感こそないが、それでも丁寧にラッカー仕上げをしていると思う。

5本ほど使っていたのだが、取材先の人にプレゼントしたり、紛失したりで残念ながら現在手元にはない。ボールペンのリフィルはお馴染みの“ゴリアット”と表記されているもので、書き心地はさすがに安定している。カランダッシュ=ボールペンという印象が強いのも納得できる製品だ。

余談だが1980年代は「エペ」というシリーズが中心だった。エペとはフランス語で「剣」のこと。剣に似せたクリップの形状が特徴で、「ジュネーブ コレクション」にもそのクリップは受け継がれていた。2000年代の前半まで展開していた「マディソン コレクション」もエペ(剣)形のクリップが採用されていた。「ジュネーブ コレクション」は「レマン コレクション」に、「マディソン コレクション」は「マディソンⅡ コレクション」に変わり、クリップの形状も変更されてしまった。個人的にはこのエペ(剣)形のクリップが好きなのだ。

柔らかな描き心地。カランダッシュの色鉛筆で絵を描く楽しさ

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カランダッシュのもう一つの顏が画材だ。1931年に水溶性色鉛筆「プリズマロ」を発売し、その品質の高さは現在も健在で、色鉛筆の世界でも一目置かれている。趣味で絵を描いているが、その際に色鉛筆をよく使う。

私は芯の柔らかい油性色鉛筆を使って濃厚に描くのが好きなのだ。時間があれば銀座の伊東屋に立ち寄って、いろいろ試し描きしているのだ。

現在は芯の柔らかいことで知られるサンフォードの「カリスマカラー」をメインに使っているが、カランダッシュの油性色鉛筆「パブロ」も合わせて使っている。「パブロ」は展開する色数も豊富で、3.7mm芯を採用。芯がとても柔らかいためタッチも良く、紙への定着がいいのだ。カランダッシュの色鉛筆は国産品と比べて値段も高いため、たくさんは買えない。しかも「パブロ」の上をいく最高峰の油性色鉛筆というのがある。2010年に発売された「ルミナンス6901」だ。

左側3本がパブロ油性色鉛筆、右側2本がルミナンス6901油性色鉛筆。

左側3本がパブロ油性色鉛筆、右側2本がルミナンス6901油性色鉛筆。

カランダッシュの色鉛筆を使用して描いた倉野さんのイラスト。色鉛筆をコピックというインクマーカーで溶かして着色しているそう。

カランダッシュの色鉛筆を使用して描いた倉野さんのイラスト。色鉛筆をコピックというインクマーカーで溶かして着色しているそう。

ASTM(米国材料試験協会)の“耐光性”の基準をクリアしていて、環境保護認定の木材を使っている。実際に購入して描いてみると、なめらかな描き味で、退色しにくいのが特長だ。「たしかにこれは高級色鉛筆だ~!」とわかるのだが、1本あたりの値段が笑えるほど高い(ルミナンス6901が530円+税、パブロが320円+税)のが難点だ。色数は少ないので1本ずつ地道に揃えていこうと覚悟を決めている。

筆記具の話に戻ると、モダンにデザインされた「アルケミクス」と「RNX.316 コレクション」が気になっている。それぞれ数本は欲しいところだ。

曲線を生かした優美な「レマン コレクション」もいいが、鉛筆を彷彿させる力強い直線デザインに挑戦する製品にも心惹かれている。デザインのコンセプトはコレクションによって異なるがスイスの精密工芸品らしさは変わらない。カランダッシュの筆記具と色鉛筆は、ボクの中ではやはり特別な存在なのだ。

ーおわりー

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公開日:2017年6月24日

更新日:2021年6月25日

Contributor Profile

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倉野路凡

ファッションライター。メンズファッション専門学校を卒業後、シャツブランドの企画、版下・写植屋で地図描き、フリーター、失業を経てフリーランスのファッションライターに。「ホットドッグ・プレス」でデビュー、「モノ・マガジン」でコラム連載デビュー。アンティークのシルバースプーンとシャンデリアのパーツ集め、詩を書くこと、絵を描くことが趣味。

終わりに

倉野路凡_image

カランダッシュのボールペンがいいという噂は以前からあった。なかでもカラーバリエーションの豊富な849コレクションを思い浮かべる人も多いはず。カランダッシュのなかでも入門編のような存在で、ボクも比較的リーズナブルな価格に釣られて、まずは849を買ってしまった。次いで「レマン コレクション」の万年筆を買って、初めてカランダッシュの凄さがわかった。作りやラッカー仕上げの丁寧さに驚いたし、万年筆としての基本である書きやすさが安定しているのだ。同じように画材としての色鉛筆にも憧れがあって、少しずつ集めている。鉛筆メーカーからスタートしているだけのことはあり、高品質を堅持しているのよくわかる。このブランドとは一生付き合っていきたいと思っている。

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