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赤谷のコンペイトウ砒/自然ヒ素
福井県赤谷での採取品。 ミステリー小説を始めとする創作において殺人の手法として度々登場する有毒元素、ヒ素からなる元素鉱物です。 こちらは突起だらけのユニークな外観から『金平糖石』の名で親しまれている標本です。 ヒ素の針状結晶が集合して球体となったもので、内部ではその一本一本が放射状に伸びているとのこと。 このような形状は世界的にも類を見ず、自然砒という鉱物は通常、不定形な塊状で産出することがほとんどです。 そのためかコンペイトウ型は相当珍しいらしく、海外の鉱物専門書においても特筆すべき標本として紹介される程であります。 それ故に珍品好きとしては手中に収めておきたいと思う石でありますが、鉱物と言えどやはり毒は毒。 表面には『砒華』という三酸化二ヒ素の二次鉱物、すなわち猛毒が生じており、不用意に扱えば知らず知らずのうちに体内に取り込んでしまう恐れがあります。 ですからヒ素や水銀の鉱物と相対する際は慎重になるべきなのでしょう。 綺麗な花には棘がある。 綺麗な石にも棘がある。 そのことを忘れずに、地球に咲くこの美しい華々とお付き合いして行きたいものです。
鉱物標本 3.5 2016年 Asテッツァライト
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赤瀬の普通蛋白石/コモンオパール
自然保護条例施行前の採集品です。 一部が玉髄化しているほか、ぽつりぽつりとしたクリストバル石らしき球状鉱物も確認できます。 オパールも玉髄もクリストバル石も、実はみな水晶と同じ成分で構成された鉱物なので、この標本はまさく二酸化ケイ素の三種盛り状態。 和名である「蛋白石」は、日本産オパールにありがちなゆで卵の白身のような質感に因むそうですが、これを見ると的を得たネーミングだと思います。 #オパール
鉱物標本 5.5~6.5 2017年 SiO₂・nH₂Oテッツァライト
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角板型モゴックルビー/鋼玉
コランダムの赤色変種であるこの石は、誰もが認める宝石界のレッドクイーン。 結晶の生成過程で微量のクロムを取り込み、ピンクでも紫でもなく《濃赤》に染まった個体のみがルビーと認められます。 そのビビッドな色調は、まるで動脈を流れる鮮血のように熱くエネルギッシュ。 ひと目見た瞬間、めくるめく衝撃が眼底から全身へ駆け巡るのを感じるのは、やはりこの石が「生命」や「情熱」の象徴とされる由縁でしょうか。 先に『擬スピネル型ルビー』を登録していましたが、私の持っているルビー原石はこちらが真打。 https://muuseo.com/tezzarite/items/105 ミャンマーに所在する世界屈指の宝石郷モゴックより産出した真紅の雪華です。 ご覧ください、この礼賛せずにはいられない六角形。 そして非加熱無処理石でありながら赫々と燃える発色。 それでいて瑞々しいまでの透明感…。 石っコになり私も17~8年ほど経ちましたが、これまでに遭遇してきた中で最高のルビーです。 この結晶を目にした瞬間、今後しばらくはこれを超えるルビー原石に出会うことはないだろうと確信した程でした。
宝石 鉱物標本 9 2020年テッツァライト
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立山の魚卵状珪石/シリケイトウーライト
温泉水の中で濃縮されたケイ素の凝固物。 このガラスビーズのような球体もまた歴とした鉱物です。 それどころか驚くべきことに、なんとこんな姿でもオパールの一種であるというのです。 決してお菓子の乾燥剤をばらしたものではありません。 地質由来の自然物である証拠に、この1~2mmの小さな球体ひとつひとつの内部に砂粒が封じ込められている様子が確認できます。 これは岩石の破砕物を核としてケイ素酸が凝集したことを意味していると同時に、オパールと言う鉱物の奥深さを物語っているものでもあります。 この奇石は一体どのような環境から生まれてきたのでしょうか。 その場所は国内にありました。 飛騨山脈の一角、立山火山の爆裂火口の中に、彼らの故郷である直径30メートルほどの熱水泉“新湯”が存在します。 元々は単なる火口湖でしたが、1858年に起きた飛越地震により熱水が湧出したことで、現在のような湯煙の立ち込める温泉に変じたと伝えられています。 約70℃の地下水が滾々と湧き続けるこの池のケイ酸濃度は異様に高く、溶存するミネラル分が固形物として析出するには充分な条件が揃っていました。 このような泉質の中、浮遊する砂粒を中心にシリカが集積して大きく成長。 そして絶えることのない湧水に煽られ続けた結果、こんなにも美しい玉滴石質のオパールの生成に繋がったと推測されています。 ここもまた国内の鉱物愛好者にとっての聖地、ならぬ“聖池”なのであります。 現在では『新湯の玉滴石産地』として国の天然記念物に指定されているため、当然ながら採取不可の聖域となっています。 https://toyama-bunkaisan.jp/search/2195/ とはいえ発見された当時にそのような保護が施行されている訳もなく多くの標本が海外に持ち出されてしまい、その珍しさのためか一粒1$もの価格で取引されたとの逸話も残されています。 こちらに掲載している彼らも明治期に海を渡ったと訊いていますが、それ再び国内に戻した形になるのでいわゆる里帰り品ということになります。 海も時代も超え遠路遥々よく戻ってきてくれました。 #オパール #国産鉱物
鉱物標本 5.5~6.5 2014年 SiO₂・nH₂Oテッツァライト
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稲倉石鉱山の菱マンガン鉱/ロードクロサイト
遷移金属マンガンを主要成分とするため自色は春爛漫なピンク色。 このMnイオンに起因する色が最大の特徴であるためギリシャ語で "薔薇の色" を意味する『ロードクロサイト』という名が与えられました。 炭酸塩が単体の金属元素と結合していること。 そしてそれらが組み合わさり三方晶系という結晶構造を形成していることから、方解石を筆頭とするカルサイトグループに分類されています。 このグループの共通点として、明瞭な劈開性を有し、自形結晶・劈開片ともにしばしば菱面体を形成することが挙げられます。 そのため付いた和名が『菱マンガン鉱』。 菱鉄鉱や菱亜鉛鉱など、頭に "菱" が付く鉱物と同様の命名則であります。 こちらの石は、北海道の積丹半島に位置する『稲倉石鉱山』で産出した "桜マンガン" のカット石。 本来であればマンガンを目的に採掘される鉱石ですが、華やかな色調を見込まれて彼のように研磨が施されることがあります。 コロラド州やペルーを初めとする海外産の個体の方がより透明で煌びやかでありますが、このとおり国産の良品も柔和で愛らしいです。
宝石 鉱物標本 3.5~4 2015年テッツァライト
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矢塚の緑簾石/エピドート
水酸化ケイ酸カルシウム-アルミニウム-鉄を主成分とする鉱物。 お茶受けに合いそうな、渋さの漂う濃厚なグリーンが特徴です。 外見からは想像つきませんが、先に投稿した「タンザナイト/灰簾石」とは化学的に近しい間柄にある鉱物です。 和名の緑簾石は、幾重にも走る条線や、複数の結晶が並列に連なる様子が“簾(すだれ)”のようであることに由来します。 こう見えて「多色性」が顕著な鉱物でもあり、光に透かすことで様々な色相を目にすることができます。 透明度の高い美結晶なだけに、その変化ぶりは鮮明であります。
宝石 鉱物標本 6~7 2004年テッツァライト
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擬スピネル型モゴックルビー/鋼玉
世界的な宝石産地であるモゴックのルビーです。 モゴックとはミャンマー第2の都市マンダレー北方に位置する町の名で、大小さまざま多数の鉱山を擁する重要産地であります。 ここでは多種の宝石が採掘されていますが、それらの中でも最も有名なのが彼らルビーではないでしょうか。 この地のルビーは鉄分含有の少ない大理石の中に形成されるため色鮮やかな傾向にあり、特に良質で紅鮮色のものはピジョンブラッドと呼ばれ、価値ある名品として取引されてきました。 鉱物としてはコランダムの色変種に属しており、結晶中のアルミニウムが微量の酸化クロムと置換されることで深紅に染まった個体がルビーと認められます。 和名で『紅玉』とも称される7月の誕生石です。 小粒ながら流石は著名産地の原石。 "鳩の血" ほどではなくも情熱的に赤く、透明度も抜群に良好です。 結晶形はスピネルとよく似た擬八面体を形成していますが、これも歴としたルビー結晶の一形態。 やや変則的な形状ながらしっかりと結晶面が揃っており個人的には高評価な一石であります。 #コランダム
宝石 鉱物標本 9 2014年テッツァライト
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強蛍光ハイアライトオパール/玉滴石
和名を『玉滴石』といい、その名の通り水滴が固まったかのような瑞々しいルックスが特徴的。 特定の結晶系を持たないガラス状(非晶質)であり、その透明な見た目から「ミュラーズガラス」とも渾名される鉱物であります。 不純物として含まれる微量なウランによりほんのりと黄色がかっているため、さながら天然のウランガラスです。 さらに外線を照射することでネオン管の如く強烈な蛍光を発します。 妖しくも美しい光で見る者を魅了して止まない、ウランは偉大な演出家なのかもしれません。 #オパール
宝石 鉱物標本 5.5~6.5 2014年/2018年テッツァライト
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宝坂の貴蛋白石/ノーブルオパール
福島県・宝坂の『屋敷鉱山』といえば、その道の人間で知らぬ者はいないオパールの聖地。 阿賀野川の支流「鬼光頭川」の畔に位置するこの地にはとある伝説が残されており、それ基にした「宝の川」というエピソードがまんが日本昔ばなしで放送されました。 (以下データベースへリンクします) http://nihon.syoukoukai.com/modules/stories/index.php?lid=852 それはとある娘が川の中から美しい石を見つけ幸せを掴むというお話なのですが、ここに登場する石というのがまさしくオパールなのではないかと伝えられているのです。 劇中ではその美しい石を宿場へ持ち込んだところ高価で買い取られ、おかげで娘は裕福な暮らしを手に入れることができたと語られています。 もしその石が本当にオパールのことを指しているのだとすれば、宿場で高値が付いたという話も頷けます。 現代よりも煌びやかなものを目にする機会が少なかったであろう時代、それも日本の貧しい山間が舞台。 ともすれば、オパール特有の鮮やかで目まぐるしく変化する光学特性が奇特に映ったことは想像に難くありません。 このような話を幼い頃に観ていたこともあり、いつかは自分もその場所に行くことを夢に見ていたのでした。 しかし私がオパールに興味を持ち始めた矢先、2008年に鉱山が完全閉山。 何しろ採掘権を所有する企業が退いて以降、一家一個人が管理してきた小規模な鉱山のこと。 それを危険の伴う坑道掘りで操業してきたとなると致し方ありません。 その坑道も既に埋め戻されてしまったとのことでした。 幕を下ろすにはあまりに惜しすぎるこの美しさ。 真珠岩から覗く凝固体がとても瑞々しく、水に濡れ、光を透過する姿は皮を剥いたライチの果実と見紛うばかり。 その表面には極彩色が踊り狂い、色とりどりの炎が潤いの中で燃え盛っているかのようです。 このように美麗な遊色に出会える確率は低かったようで、運が良くて数十個、悪い時は数百個もの原石をかち割ってようやく一個といった調子であったと聞きます。 それだけに、見事な虹が目に飛び込んでくる喜びは筆舌に尽くし難いものであったことでしょう。 私もその感動を直に味わいたかったです。 #オパール #国産鉱物
宝石 鉱物標本 5.5~6.5 2014年テッツァライト
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夕張のコハク入り瀝青炭/コール
かつて国の産業を支えた夕張の黒きダイヤモンド。 太古に生息していた松柏類の樹脂が地中に埋もれ硬化した物質が『琥珀』です。 厳密には鉱物ではありませんが、珊瑚や真珠と同様、その美しさから有機鉱物として扱われてきました。 一方で『石炭』は、埋没した植物が地圧・地熱作用を受け続け、腐敗することなく炭化変質した物質。 広義の意味ではこれもまた一種の化石と言えましょう。 かたや宝石、かたや燃料。 姿も用途も異なる両者の混在した姿には意外性を感じずにはいられません。 しかし両者とも植物(とその分泌物)を起源とすることから、その共存は案外理に適っているのでしょう。 この標本は明らかに石炭がメインなのですが、琥珀の存在感も負けてはいません。 UVライトを照射すると青く鮮明に自己主張するため、否応なしにその存在に気付かされるのでした。 #琥珀
化石 宝石 鉱物標本 2019年テッツァライト
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千本峠の高温紫石英/ベータクォーツ
カットビーズのような姿をした『高温石英』の重六角錐です。 ほんのりと紫色に色づいているのがなんとも可憐であります。 あまり一般的には知られていませんが、石英/水晶には "低温型α" と "高温型β" の区別が存在します。 『低温型』は573℃より低い温度で生成された石英のことで、図鑑などで頻繁に掲載されているオーソドックスな六角柱状の結晶はこのタイプに分類されます。 対して『高温型』は約573~867℃の条件下で晶出したものを指します。 低温型とは結晶構造が異なる(低温型:三方晶、高温型:六方晶)ほか、外観的にも大きな違いがあります。 普通の水晶ならあるはずの柱面が丸っきり存在せず、代わりに両端にある六角錐同士をそのまま直結させたような姿をしているのです。 その独特な形状はしばしば "そろばん玉" にも例えられます。 このような違いが現れる要因は、石英の主成分である二酸化ケイ素の性質にあります。 二酸化ケイ素は、一定の組成のまま結晶構造のみを変化させる「同質異像」の性質を持っています。 そのため圧力や温度の条件によって原子配列が流動的に変化し、異なる姿の鉱物へと転移するのです。 ちなみにこちらの展示について、タイトルに高温型と銘打っているもののひとつ落とし穴があります。 実を言いますと高温型の安定相は573℃以上の環境でありますので、その温度以上でなければ高温型としての結晶構造を保っていられません。 すなわち573℃から冷却してしまうと相転移を起こし、低温型の結晶構造へと変化してしまうのです。 ましてや私たちが暮らしているような常温の環境に置かれているのであれば尚のこと。 こちらに展示している結晶も外観こそ高温型の形を留めているものの、内部的には低温型へと変化してしまっているのです。 単純なものほど奥が深いとはよく言われますが、石英という鉱物を調べているとそのことを実感します。 彼らの多様性は群を抜いています。 #国産鉱物
宝石 鉱物標本 7 2014年テッツァライト
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乙女鉱山の灰重石/シェーライト
水晶の産地として名高い、山梨県の『乙女鉱山』より産出した清澄な灰重石(かいじゅうせき)です。 蛍光鉱物としてはホタル石と並び知名度が高く、短波の紫外線により青白い光を放つ姿が有名です。 この標本を目の当たりにし、私はひたすら驚嘆するばかりでした。 まず灰重石は、重金属「タングステン」を得るために採掘される鉱石です。 そのため本来であれば金属材の原料として製錬に回されてしまうであろうものが、こちらの彼にはどういう訳か宝石然とした研磨が施されていたのです。 幾ら透明度が高いとはいえ、この鉱物に対しカッティングが施されることはとても稀なことであります。 こちらに細工されているバゲットカットはとてもシンプルな研磨であるので、恐らくは研究用の試料として最低限の装いが成されたものだったのではないかと思います。 そのうえ国産品。 しかもラベルの産地表記に「乙女鉱山」と書かれていたのですから尚のこと驚きです。 かつてこの鉱山からもタングステン鉱が採掘されていたことは耳にしていました。 しかし水晶の方があまりに有名すぎて、乙女産の灰重石というのはそれまで図鑑ですら目にしたことが無かったのです。 この類まれな石との出会いに、ひたすら身が締まる思いであります。 #国産鉱物
宝石 鉱物標本 4.5~5 2019年テッツァライト
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久慈琥珀の腕時計/シチズン製アンバーウォッチ
久慈琥珀博物館の運営体「株式会社 久慈琥珀」と、国内メーカでお馴染みのシチズンによるコラボ商品のひとつ。 正方形ドーム型の琥珀があしらわれたステンレス製の腕時計です。 白蝶貝の文字盤にはソーラーセルが内蔵されているため電池交換は不要。 日光はもちろん、蛍光灯の光だけでも充電されるため普通に生活している中で電池切れに陥ることはまずありません。 石は4つともすべてが『岩手・久慈産』の天然品。 "太陽の石" とも呼ばれた鉱物なだけあってか、このエレクトラム色の金属ボディとの親和性はとても高く感じられます。 また本琥珀なのでブラックライトを照射することにより青白い光を発します。 陽光を受けて輝く琥珀がとても甘美でなおかつ実用的。 使ってよし、眺めてもよし。 おまけに隠しギミックとして蛍光性も備わっているという何とも充足感ある一品なのでした。 #琥珀
化石 宝石 時計 鉱物アイテムテッツァライト
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ヴェルデライト/リチア電気石
水酸化ホウケイ酸ナトリウム-リチウム-アルミニウムを主成分とする鉱物。 和名が示す通り、微弱な圧電性・焦電性を示す石として知られています。 リチア電気石のカラーバリエーションのうち、不純物として含まれた鉄分に由来する個体がこちらのグリーントルマリン。 またの名を「ヴェルデライト」と言います。 非常に小ぶりな結晶ですが、その分クラックも最小限に抑えられているので透明度が高く保たれています。
宝石 鉱物標本 7~7.5 2006年テッツァライト
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ローマン・ガラス/銀化ガラス
アフガニスタンで出土したアーティファクト。 『ローマンガラス』とは帝政ローマにおいて作られたガラス工芸品のことを指します。 それら古代ローマの遺物が地中に埋もれ、約1600~2000年の時を経て『銀化現象』を起こしたものが銀化ガラスと呼ばれています。 銀化とは言うものの実際に銀(Ag)が表面を覆っているわけではありません。 地中に含まれる鉄やマグネシウム、銅といった金属元素とガラス成分が反応したことで形成された化成皮膜であります。 このように元は人工物なのですが、自然作用によってタマムシ様の干渉色が作られること、そして宝飾品としても人々を魅了していることから半天然石と言えるのではないかと思います。 特徴的なリング部分は何かの持ち手かと思いましたが、小指すら通れないほど小さな穴です。 となると紐状のものを通すための細工なのでしょうか。 このガラス片は一体なにの道具の一部で、どんな人に使われていたのか・・・ 想像がロマンを膨らますローマンガラスなのでした。
ガラス製品 宝石 2016年 アフガニスタンテッツァライト
