-
まるで天然のヘキサゴンカット/××水系の高温石英
新たに発見した採取地、××川水系で入手した高温石英のひとつです。 縦横の大きさは6×7㎜ほど。 損傷により奇しくもヘキサゴン形のカットストーンに見えるというユニークな一粒です。 高温石英とは約573~867℃の温度条件で晶出した特殊な石英のことを指します。 通常の石英との違いはその外観に現れており、六角錘を2つ合わせたような形状が特徴となります。 今回採取したこちらの石は比較的透明度が高く結晶形も整っているのですが、残念なことに頂点部分が片方失われていました。 恐らくは急流を下る過程で幾度となく打ちつけられ、ついには割れてしまったのでしょう。 しかしその断口がテーブル面のように平坦であったため、高温石英特有の結晶形も相まり、まるで研磨された宝石を思わせるフォルムに仕上がっていたのでした。 こんな見た目なものですから、初めは誰かが指輪の石を落としたのかと思ってしまいました。 試しに仮留リングにセットしてみるとまさに宝石付きの指輪そのものです。 これぞ偶然が生んだ奇石。 欠点も極まるともはや芸術ですね。
宝石 鉱物標本 7 2020年テッツァライト
-
チェンバーサイト/チェンバース石
原産地バーバーズヒルのライラック色チェンバーサイトです。 石の愛好者以外には全くと言っていいほど馴染みのない存在でありますが、テキサス州チェンバーズ郡で発見されたことに因んで命名された鉱物です。 結晶形はご覧のとおり、立方晶系と見紛うばかりの見事な四面体を成すのが特徴。 ピラミッドやテトラパックを思わせるユニークな形状をしていますが、当然ながらこれも人の手の加わっていない自然物です。 ましてや古代文明の人々が創造した遺物などでもありません。 正真正銘の天然結晶であります。 モース硬度は水晶と同等の7を有し、なおかつ透明で美しい外観をしているため宝石たり得る素質を備えています。 しかしながらこの石は如何せん小粒な原石が多く、研磨するには少々大きさの足りぬものばかり。 かく言う私のチェンバーサイトも数ミリほどしかありません。 いつかもっと大きくて見応えのあるサイズの結晶に出会いたいものです。
宝石 鉱物標本 7 2015年テッツァライト
-
〇〇水系の高温緑石英/グリーンベータクォーツ
これまでに採集した高温石英の中でも特に変わり種で、こんなのも採れるのかと正直驚いてしまった風変わりな一石です。 https://muuseo.com/tezzarite/items/96 大きさは先に展示した結晶を上回る7㎜級。 エッジは摩耗し結晶面は抉れシルエットはやや崩れていますが、六角形かつソロバン玉の形状から高温石英であることが分かります。 しかしこの石の特筆点は大きさなどではありません。 そう、タイトルのもある通り "色" です。 なんと面白いことに他の結晶に見られない濃緑色を呈していたのです。 このミドリ色は当然ながら石英自身の色ではなく、結晶の内部に取り込まれた他の鉱物に起因するものです。 その "他の鉱物" の正体については肉眼鑑定なので定かではありませんが、大抵は「緑泥石」や「緑閃石」「灰鉄輝石」といった緑色鉱物が原因なのでそれらの内のどれかであると思われます。 この緑水晶は、草花の茂る岸辺を散策していたところ保護色のごとく周囲に溶け込むように転がっていました。 はじめ石英だとは分からず、色味の印象から野ウサギの糞に見えてしまったのはここだけの話です。
宝石 鉱物標本 7 2020年テッツァライト
-
〇〇水系の高温石英/ベータクォーツ
普通 "水晶" あるいは "石英" と聞いて真っ先にイメージする姿というと、恐らく削った鉛筆のような先端の尖った六角柱の結晶が殆どだと思います。 しかし彼らのように柱面を著しく欠いた特徴的な結晶形の者も存在します。 それが約573~867℃の高温条件で晶出した『高温石英』です。 思えば3月上旬。 雪の融け残る山間を訪れ、川底の砂泥からこの特異な結晶を見止めた瞬間から探求が始まります。 https://muuseo.com/tezzarite/diaries/11 それから長閑な谷川に通い詰めること数ヶ月。 最初の漁り場から上流1㎞ほどの範囲を探しまわり、ようやく数粒の理想的な結晶を見つけることができました。 まずは大きさ。 見つかる結晶は精々1~3㎜程度といったものが殆どでしたが、1枚目の標本は堂々た5ミリ級。 6枚目の上部に映っている結晶に至っては軸長6㎜にも達していました。 次に透明感。 実は5㎜以上の結晶にもちょくちょく遭遇したですが、そういった個体の悉くが亀裂もしくは不純物だらけ。 お世辞にも美しいとは呼べぬものばかりでした。 そんな中、大きさと透明度を兼ね備えた彼らは奇跡の存在であります。 加えて形状バランス。 結晶面のひとつひとつがほぼ均等な大きさで揃っており、結晶軸にも偏心がありません。 そのため上下の六角錐が鏡写しになっていると錯覚するほど対称性に優れています。 また多少の欠けこそあるものの致命的な欠損には至っておらずソロバン玉のシルエットはしっかり保たれています。 総じて様々な要素が小高く纏まった合格品。 かの有名な千本峠産にも匹敵する美結晶であると思います。 これまでは形が綺麗なのに極小サイズだったり、5㎜以上だけれど欠けが多かったり…といった調子が殆どであったものですから、見つけた瞬間は最高に嬉しかったです。 山が育み川が運んだ水の結晶。 恵んでくれた自然に感謝です。
宝石 鉱物標本 7 2020年テッツァライト
-
千本峠の高温紫石英/ベータクォーツ
カットビーズのような姿をした『高温石英』の重六角錐です。 ほんのりと紫色に色づいているのがなんとも可憐であります。 あまり一般的には知られていませんが、石英/水晶には "低温型α" と "高温型β" の区別が存在します。 『低温型』は573℃より低い温度で生成された石英のことで、図鑑などで頻繁に掲載されているオーソドックスな六角柱状の結晶はこのタイプに分類されます。 対して『高温型』は約573~867℃の条件下で晶出したものを指します。 低温型とは結晶構造が異なる(低温型:三方晶、高温型:六方晶)ほか、外観的にも大きな違いがあります。 普通の水晶ならあるはずの柱面が丸っきり存在せず、代わりに両端にある六角錐同士をそのまま直結させたような姿をしているのです。 その独特な形状はしばしば "そろばん玉" にも例えられます。 このような違いが現れる要因は、石英の主成分である二酸化ケイ素の性質にあります。 二酸化ケイ素は、一定の組成のまま結晶構造のみを変化させる「同質異像」の性質を持っています。 そのため圧力や温度の条件によって原子配列が流動的に変化し、異なる姿の鉱物へと転移するのです。 ちなみにこちらの展示について、タイトルに高温型と銘打っているもののひとつ落とし穴があります。 実を言いますと高温型の安定相は573℃以上の環境でありますので、その温度以上でなければ高温型としての結晶構造を保っていられません。 すなわち573℃から冷却してしまうと相転移を起こし、低温型の結晶構造へと変化してしまうのです。 ましてや私たちが暮らしているような常温の環境に置かれているのであれば尚のこと。 こちらに展示している結晶も外観こそ高温型の形を留めているものの、内部的には低温型へと変化してしまっているのです。 単純なものほど奥が深いとはよく言われますが、石英という鉱物を調べているとそのことを実感します。 彼らの多様性は群を抜いています。 #国産鉱物
宝石 鉱物標本 7 2014年テッツァライト
-
アイリスアゲート/瑪瑙
虹色鉱物の代表格といえば、おそらくオパールの名が一番に挙がるのではないかと思います。 ですがそれらにも引けを取ることのない七変化の光学特性が、このメノウには秘められているのです。 ギリシャ神話における『虹の女神』を名前に冠するこの石は、そのままでは何の魅力もない、没個性なメノウ片にしか見えません。 しかし裏側から強い光を当てることで様相が一変。いいえ七変。 石の中に眠る女神は真の姿を露わにし、私たちはようやくその名の由来を思い知ることができるのであります。 これは原石を薄く切り出すことでメノウの積層構造が「回折格子」となり、そこを光が通過する際、プリズムを介したように分光されるために起こる現象です。 このように科学的に説明のつく物理現象ながら、こうして現れる色彩は魔法と見紛うばかりの美しさです。 使用する光源の種類や照射角度、さらには手元の微妙な震えによって目まぐるしく色相を変えるため、お気に入りの表情を捉え続けることは容易ではありません。 虹の女神はとても気まぐれなのであります。
宝石 鉱物標本 7 2017年テッツァライト
-
レッドファントムアメジスト/幻影紫水晶
結晶の成長が断続的に行われた結果、かつての結晶面が積層模様として内部にとり残された特殊な水晶です。 この内在する累帯構造があたかも虚ろげな存在(幽霊や幻影)に見えることから『ファントムクォーツ』の名で呼ばれています。 また結晶の先端部が膨らんだ形状を成していることから「松茸水晶」や「王笏水晶」とも呼ばれる形態であります。 こちらのアメジストは先端面に「鱗鉄鉱」という鉱物が付着した状態で再成長を遂げました。 そのため内部には見事なストロベリーファントムが形成されています。 このような構造を見ると、鉱物の結晶は“原子の積層”によって成長するものであるということを再認識させられます。 #アメシスト
宝石 鉱物標本 7 2019年テッツァライト
-
バンブーカルセドニー/玉髄
植物の茎を軸に発達したとみられるユニークなカルセドニーです。 バンブーとありますが鍾乳石状に発達した様子がそのように見えるだけであって、実際に竹の化石がカルセドニー化したわけではないようです。 しかし植物を起源としていることは確かなようで、中心部の空洞にその名残を見ることができます。 表面のモコモコに乳白色も相まってとても柔和な印象です。
宝石 鉱物標本 7 2018年テッツァライト
-
フォスフォリッククォーツ(仮称)/燐入り水晶
内部に蛍光するリン(P)と石油を内包しているとされる未知の水晶です。 そのまま観察したのではリンの姿を捉えることができないため、パッと見ただのオイル入り水晶にしか見えません。 しかし紫外線を照射してみると、なにもないはずの箇所も蛍光を示すため、確かに石油ではない「目に見えない何か」が閉じ込められていることが分かります。 これは蛍光色の違いからも一目瞭然であります。 リンが内部に入り込むとは非常に興味深いのですが、まだ出回って間もないのか情報がまったくありません。 現時点で判明しているのはマダガスカルが産地であること。 そして分析の結果、リン以外にも複数の成分のインクルージョンが確認された、ということくらいです。 これを購入したお店の方も「珍しいけど流通が少なすぎて、たいして話題にもならずに終わるかもしれない」と仰っていたのが印象的でした。 青白い燐火が幻想的で美しく、存在そのものも含めて面妖な水晶です。
宝石 鉱物標本 7 2018年テッツァライト
-
アゲートシェル/瑪瑙化した巻貝
始新世後期の巻貝化石がシリカと置換されアゲート化したものです。 光にかざすと半透明で、シリカが内部まで浸透していることがよくわかります。 コーヒーシュガーを思わせる香ばしいブラウンがなんとも美味しそうです。 規則正しく生え揃ったトゲは生存率を高めるための防衛策なのでしょうか。 精いっぱいの威勢を張っているようで微笑ましく思います。
化石 鉱物標本 7 2013年テッツァライト
-
ペトロレウムクォーツ/石油入り水晶
水晶(石英/クォーツ)といえば誰もが知る鉱物の代表格で、今日までに多種多様な種類が発見されています。 色によって宝石名が変わるだけでなく、内包する不純物によって呼び名が変わることもバリエーションが豊富となった一因です。 一例としてこちらの両剣水晶。 結晶化の過程で内部に鉱物油を包有したことから『石油入り水晶』などと呼ばれています。 この鮮黄色の液体はハイドロカーボンを主成分とするものとされており、紫外線を照射することで青白く幻想的な蛍光を放つのでした。 さらに液中には炭化物らしき固形物と天然ガスと思われる気泡が浮かんでおり、結晶を傾けるとコロリと動く姿が確認できます。 太古の遺物が外界から隔絶され変容することなく保存され続けた様はコールドスリープさながらであります。
宝石 鉱物標本 7 2014年テッツァライト
