-
角板型モゴックルビー/鋼玉
コランダムの赤色変種であるこの石は、誰もが認める宝石界のレッドクイーン。 結晶の生成過程で微量のクロムを取り込み、ピンクでも紫でもなく《濃赤》に染まった個体のみがルビーと認められます。 そのビビッドな色調は、まるで動脈を流れる鮮血のように熱くエネルギッシュ。 ひと目見た瞬間、めくるめく衝撃が眼底から全身へ駆け巡るのを感じるのは、やはりこの石が「生命」や「情熱」の象徴とされる由縁でしょうか。 先に『擬スピネル型ルビー』を登録していましたが、私の持っているルビー原石はこちらが真打。 https://muuseo.com/tezzarite/items/105 ミャンマーに所在する世界屈指の宝石郷モゴックより産出した真紅の雪華です。 ご覧ください、この礼賛せずにはいられない六角形。 そして非加熱無処理石でありながら赫々と燃える発色。 それでいて瑞々しいまでの透明感…。 石っコになり私も17~8年ほど経ちましたが、これまでに遭遇してきた中で最高のルビーです。 この結晶を目にした瞬間、今後しばらくはこれを超えるルビー原石に出会うことはないだろうと確信した程でした。
宝石 鉱物標本 9 2020年テッツァライト
-
擬スピネル型モゴックルビー/鋼玉
世界的な宝石産地であるモゴックのルビーです。 モゴックとはミャンマー第2の都市マンダレー北方に位置する町の名で、大小さまざま多数の鉱山を擁する重要産地であります。 ここでは多種の宝石が採掘されていますが、それらの中でも最も有名なのが彼らルビーではないでしょうか。 この地のルビーは鉄分含有の少ない大理石の中に形成されるため色鮮やかな傾向にあり、特に良質で紅鮮色のものはピジョンブラッドと呼ばれ、価値ある名品として取引されてきました。 鉱物としてはコランダムの色変種に属しており、結晶中のアルミニウムが微量の酸化クロムと置換されることで深紅に染まった個体がルビーと認められます。 和名で『紅玉』とも称される7月の誕生石です。 小粒ながら流石は著名産地の原石。 "鳩の血" ほどではなくも情熱的に赤く、透明度も抜群に良好です。 結晶形はスピネルとよく似た擬八面体を形成していますが、これも歴としたルビー結晶の一形態。 やや変則的な形状ながらしっかりと結晶面が揃っており個人的には高評価な一石であります。 #コランダム
宝石 鉱物標本 9 2014年テッツァライト
-
モンタナ・エルドラドサファイア/鋼玉
河畔の "黄金郷" で採集されたモンタナサファイアの原石です。 モンタナサファイアとは、その名の通りモンタナ州で産出する至宝。 主として州の西部に点在する3箇所の漂砂鉱床、および唯一の初生鉱床であるヨゴ渓谷から採掘される色とりどりのサファイアを指します。 この小さな妖精が文明人と邂逅したのは、アメリカがゴールドラッシュに沸いていた19世紀後半のことです。 金を求めてやって来た探鉱者の手により、州都ヘレナ北東のミズーリ川上流部にて発見されました。 こちらはそんな古典的産地の一角に位置する鉱山のひとつ「エルドラド/Eldorado Bar」で採掘されたラムネ瓶色の単結晶です。 自然作用により水磨され結晶面の照りはすっかり失われていますが、堂々たる六角柱のシルエットは健在。 また「多色性」という性質も顕著に現れており、例えば結晶の縦軸に沿って観察すると水色味が強く見えます。 密かにバイカラーの原石でもあり、調光したり前述の多色性をうまく利用することで美麗なコントラストを拝むことができるのでした。 #コランダム
宝石 鉱物標本 9 2017年テッツァライト
-
稲倉石鉱山の菱マンガン鉱/ロードクロサイト
遷移金属マンガンを主要成分とするため自色は春爛漫なピンク色。 このMnイオンに起因する色が最大の特徴であるためギリシャ語で "薔薇の色" を意味する『ロードクロサイト』という名が与えられました。 炭酸塩が単体の金属元素と結合していること。 そしてそれらが組み合わさり三方晶系という結晶構造を形成していることから、方解石を筆頭とするカルサイトグループに分類されています。 このグループの共通点として、明瞭な劈開性を有し、自形結晶・劈開片ともにしばしば菱面体を形成することが挙げられます。 そのため付いた和名が『菱マンガン鉱』。 菱鉄鉱や菱亜鉛鉱など、頭に "菱" が付く鉱物と同様の命名則であります。 こちらの石は、北海道の積丹半島に位置する『稲倉石鉱山』で産出した "桜マンガン" のカット石。 本来であればマンガンを目的に採掘される鉱石ですが、華やかな色調を見込まれて彼のように研磨が施されることがあります。 コロラド州やペルーを初めとする海外産の個体の方がより透明で煌びやかでありますが、このとおり国産の良品も柔和で愛らしいです。
宝石 鉱物標本 3.5~4 2015年テッツァライト
-
ペツォッタイト・キャッツアイ/ペツォッタ石
2002年にアンバトヴィタのサカヴァラナ鉱山で発見され、その翌年に晴れて新種として認定されたピンク色の宝石です。 発見された当初はエメラルドやモルガナイトらと同じ緑柱石の一種で、単なるピンクに発色したベリルであると見做されていました。 成分的にもBeとAlを含むケイ酸塩鉱物で、結晶の形状も六角形に成長する点は確かに両者ともよく似ています。 セシウムを含み、ピンクの源が微量のマンガン由来である点もモルガナイトと共通です。 しかし分析の結果、種々の特性が緑柱石とは異なることが判明しました。 大きな差異はやはり化学組成です。 緑柱石はBeとAlのケイ酸塩鉱物ですが、ペツォッタ石はこのうちBeの一部をCsやLiと置き換えた構造を持っていました。 特にセシウムの含有量においては、モルガナイトのそれを優に上回る数値誇っているとされます。 これが決定打となったのでしょう。 “ラズベリル”と呼ばれていたはその石は、既存のベリルとは物性を異にする独立種として認知されるに至りました。 この特徴的な鉱物名は、サンプルを分析した『フェデリコ・ペツォッタ』博士に因んで銘打たれたものです。 同氏はミラノ自然史博物館のキュレーターを務めていた人物で、さらにマダガスカルのペグマタイト鉱床の研究にも深く携わっていました。 そしてペツォッタイトは丁度この花崗岩質の濃集帯から出でた鉱物です。 博士が心を傾けたマダガスカルの地で、氏のこれまでの熱意や努力が美しい結晶となって地上に顕現したものが、このペツォッタイトなのではないかと夢想せずにはいられません。
宝石 鉱物標本 8 2013年テッツァライト
-
アイリスアゲート/瑪瑙
虹色鉱物の代表格といえば、おそらくオパールの名が一番に挙がるのではないかと思います。 ですがそれらにも引けを取ることのない七変化の光学特性が、このメノウには秘められているのです。 ギリシャ神話における『虹の女神』を名前に冠するこの石は、そのままでは何の魅力もない、没個性なメノウ片にしか見えません。 しかし裏側から強い光を当てることで様相が一変。いいえ七変。 石の中に眠る女神は真の姿を露わにし、私たちはようやくその名の由来を思い知ることができるのであります。 これは原石を薄く切り出すことでメノウの積層構造が「回折格子」となり、そこを光が通過する際、プリズムを介したように分光されるために起こる現象です。 このように科学的に説明のつく物理現象ながら、こうして現れる色彩は魔法と見紛うばかりの美しさです。 使用する光源の種類や照射角度、さらには手元の微妙な震えによって目まぐるしく色相を変えるため、お気に入りの表情を捉え続けることは容易ではありません。 虹の女神はとても気まぐれなのであります。
宝石 鉱物標本 7 2017年テッツァライト
-
赤谷のコンペイトウ砒/自然ヒ素
福井県赤谷での採取品。 ミステリー小説を始めとする創作において殺人の手法として度々登場する有毒元素、ヒ素からなる元素鉱物です。 こちらは突起だらけのユニークな外観から『金平糖石』の名で親しまれている標本です。 ヒ素の針状結晶が集合して球体となったもので、内部ではその一本一本が放射状に伸びているとのこと。 このような形状は世界的にも類を見ず、自然砒という鉱物は通常、不定形な塊状で産出することがほとんどです。 そのためかコンペイトウ型は相当珍しいらしく、海外の鉱物専門書においても特筆すべき標本として紹介される程であります。 それ故に珍品好きとしては手中に収めておきたいと思う石でありますが、鉱物と言えどやはり毒は毒。 表面には『砒華』という三酸化二ヒ素の二次鉱物、すなわち猛毒が生じており、不用意に扱えば知らず知らずのうちに体内に取り込んでしまう恐れがあります。 ですからヒ素や水銀の鉱物と相対する際は慎重になるべきなのでしょう。 綺麗な花には棘がある。 綺麗な石にも棘がある。 そのことを忘れずに、地球に咲くこの美しい華々とお付き合いして行きたいものです。
鉱物標本 3.5 2016年 Asテッツァライト
-
レッドファントムアメジスト/幻影紫水晶
結晶の成長が断続的に行われた結果、かつての結晶面が積層模様として内部にとり残された特殊な水晶です。 この内在する累帯構造があたかも虚ろげな存在(幽霊や幻影)に見えることから『ファントムクォーツ』の名で呼ばれています。 また結晶の先端部が膨らんだ形状を成していることから「松茸水晶」や「王笏水晶」とも呼ばれる形態であります。 こちらのアメジストは先端面に「鱗鉄鉱」という鉱物が付着した状態で再成長を遂げました。 そのため内部には見事なストロベリーファントムが形成されています。 このような構造を見ると、鉱物の結晶は“原子の積層”によって成長するものであるということを再認識させられます。 #アメシスト
宝石 鉱物標本 7 2019年テッツァライト
-
ゴールドシーンサファイア/鋼玉
『ゴールドシーンサファイア』は近年になって宝石界に現れたアフリカの新星。 その名のとおり絢爛な包有物から放たれる輝きが特徴のサファイアであります。 落ち着いた色調のブルーと見事に調和しており、ラピスラズリのごとき雅やかな雰囲気を醸し出しています。 この輝きの源はブルーサファイアの中に広がるチタンと鉄の酸化鉱物から成るものとされています。 本物の金などではありませんがこのありふれた金属こそがゴールドシーンの肝であり、彼の石を新種たらしめた立役者なのであります。 彼らの中には、金色の部分に「アステリズム」というスター効果が出現する個体もいるようです。 私のサファイアにも星彩が現れるのですが、どうやらこれは繊維状の包有物が一定の角度で配列していることが要因であると思われます。 このアステリズムは本家スターサファイアと比べれば本当にささやかなもので、カメラに収めようとするとまともに捉えることすら叶いません。 肉眼観察であれば比較的シャープなスターラインを目にすることができるだけにもどかしい限りです。 ***Reirei Paint Art様から作品のモデルにして頂きました!*** https://muuseo.com/ReireiPaintArt/items/371 https://muuseo.com/tezzarite/items/112
宝石 鉱物標本 9 2019年テッツァライト
-
バンブーカルセドニー/玉髄
植物の茎を軸に発達したとみられるユニークなカルセドニーです。 バンブーとありますが鍾乳石状に発達した様子がそのように見えるだけであって、実際に竹の化石がカルセドニー化したわけではないようです。 しかし植物を起源としていることは確かなようで、中心部の空洞にその名残を見ることができます。 表面のモコモコに乳白色も相まってとても柔和な印象です。
宝石 鉱物標本 7 2018年テッツァライト
-
フォスフォリッククォーツ(仮称)/燐入り水晶
内部に蛍光するリン(P)と石油を内包しているとされる未知の水晶です。 そのまま観察したのではリンの姿を捉えることができないため、パッと見ただのオイル入り水晶にしか見えません。 しかし紫外線を照射してみると、なにもないはずの箇所も蛍光を示すため、確かに石油ではない「目に見えない何か」が閉じ込められていることが分かります。 これは蛍光色の違いからも一目瞭然であります。 リンが内部に入り込むとは非常に興味深いのですが、まだ出回って間もないのか情報がまったくありません。 現時点で判明しているのはマダガスカルが産地であること。 そして分析の結果、リン以外にも複数の成分のインクルージョンが確認された、ということくらいです。 これを購入したお店の方も「珍しいけど流通が少なすぎて、たいして話題にもならずに終わるかもしれない」と仰っていたのが印象的でした。 青白い燐火が幻想的で美しく、存在そのものも含めて面妖な水晶です。
宝石 鉱物標本 7 2018年テッツァライト
-
セイロン・ブルーサファイア/鋼玉
無垢のダイヤモンド、紅のルビー、翠のエメラルド、変彩のアレクサンドライトと並び五大宝石として尊ばれてきた貴石です。 鉱物学的にはルビーと同じ「コランダム/鋼玉」の色変種に属しています。 和名で『青玉』とも呼ばれる9月の誕生石です。 サファイアと聞いて誰もが想像するのがこの色ではないでしょうか。 主要元素であるアルミニウムの一部と置き換わった「鉄とチタンの相互作用」が生み出すイノセントなブルーです。 おまけにこちらは結晶面の照りが強く、それでいて透明度の高いことから“ガラスボディ”とも称えられる理想的な結晶です。 端から端まで徹頭徹尾、ひたすら蒼く清々しく、さながら明け空が落としたひと雫のようであります。 #サファイア
宝石 鉱物標本 9 2018年テッツァライト
-
エクリプスマーブル/多結晶質方解石
ジャワ島で産出したエクリプスマーブルのオーバルカボションです。 エクリプス "ジャスパー" の名でも知られる石ですが、その実態は多結晶質の方解石をベースとする混合体。 宇宙に浮かぶ天体のような模様が特徴で、このような外観から2009年に観測された皆既日食の際、海外のパワーストーン界隈で大いに注目されたのだそうです。 個人的には日食というより月のイメージが強かったため、こちらのように真ん丸お月さまに見える石を探し当てました。 闇色の黒地に黄斑がぼんやりと映る様は、朧月夜の空を描き写したかのよう。 さらに月輪のようなのグラデーションが、外縁部から徐々に蝕まれつつある様子を表現しているようで何とも雅であります。 ちなみにこの "月" の正体は、ヒ素の硫化鉱物である『オーピメント(石黄)』が浸み込んだものであるとされています。 月は常に人々に寄り添い、慈しみの光で危険な夜を照らし私たちを守ってくれます。 しかしその一方で精神をかき乱し、人々を惑わせるという怪しげな伝承があるのもまた事実。 そういった狂気的な一面がこの毒物によって鮮やかに体現されているようで、エクリプスという石を単に神秘的なだけでは終わらせないアクセントになっているのではないかと思います。
宝石 鉱物標本 3 2015年テッツァライト
-
ペトロレウムクォーツ/石油入り水晶
水晶(石英/クォーツ)といえば誰もが知る鉱物の代表格で、今日までに多種多様な種類が発見されています。 色によって宝石名が変わるだけでなく、内包する不純物によって呼び名が変わることもバリエーションが豊富となった一因です。 一例としてこちらの両剣水晶。 結晶化の過程で内部に鉱物油を包有したことから『石油入り水晶』などと呼ばれています。 この鮮黄色の液体はハイドロカーボンを主成分とするものとされており、紫外線を照射することで青白く幻想的な蛍光を放つのでした。 さらに液中には炭化物らしき固形物と天然ガスと思われる気泡が浮かんでおり、結晶を傾けるとコロリと動く姿が確認できます。 太古の遺物が外界から隔絶され変容することなく保存され続けた様はコールドスリープさながらであります。
宝石 鉱物標本 7 2014年テッツァライト
