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マグネシオターフェアイト2N'2S/ターフェ石
スリランカの誇る "宝石の都" ラトゥナプラで産出したターフェアイト原石です。 色が濃く、それでいて六角形の輪郭が確認できるたいへん稀有な結晶であります。 こういうトッテオキは後々まで残しておきたい性分なうえ「せっかく投稿するのなら特別な機会に…」と決めていたもので長らく蔵匿状態が続いていました。 そんな訳で、新年トップバッターという大役に白羽の矢が立ちようやく公開するに至ります。 モーブカラーの美しい石ですが、特筆すべき点は発見された経緯にあるでしょう。 1945年のことです。 アイルランドの宝石愛好家であったリチャード・ターフェ伯爵が「スピネル/尖晶石」と思しきルースを観察していたところ特異な点を発見。 スピネルと思われていた紫色のそれが、立方晶系のスピネルでは起こり得ないはずの光学現象(複屈折)を示していたことに、氏は違和感を覚えたのです。 その後の詳細な検査の結果、やはり正体は新種であったことが判明。 発見者の功績を讃え、未知の鉱物は『Taaffeite』と命名されました。 このようにカッティングされた石から新種が発見されるなど前代未聞の出来事であります。 おまけにターフェアイトの示す複屈折率など微々たる数値で、とてもではありませんが容易に肉眼判別できるほど劇的なものではありません。 ましてや当時の人々が使用していた検査機器の性能なども、現代のそれと比べたら一体どれほどのものだったのか。 そのような条件下で僅かな光学的差異を捉えた観察眼の鋭さには、ただただ敬服するばかりであります。 ターフェ氏が発見者でなければこの石はどのような名前になっていたのか…あるいは新種と認識されず、長いことスピネルと混同され続けていたかもしれません。 探求の眼差しが、ある一石の運命を変えたことは間違いないでしょう。
宝石 鉱物標本 8~8.5 2017年テッツァライト
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まるで天然のヘキサゴンカット/××水系の高温石英
新たに発見した採取地、××川水系で入手した高温石英のひとつです。 縦横の大きさは6×7㎜ほど。 損傷により奇しくもヘキサゴン形のカットストーンに見えるというユニークな一粒です。 高温石英とは約573~867℃の温度条件で晶出した特殊な石英のことを指します。 通常の石英との違いはその外観に現れており、六角錘を2つ合わせたような形状が特徴となります。 今回採取したこちらの石は比較的透明度が高く結晶形も整っているのですが、残念なことに頂点部分が片方失われていました。 恐らくは急流を下る過程で幾度となく打ちつけられ、ついには割れてしまったのでしょう。 しかしその断口がテーブル面のように平坦であったため、高温石英特有の結晶形も相まり、まるで研磨された宝石を思わせるフォルムに仕上がっていたのでした。 こんな見た目なものですから、初めは誰かが指輪の石を落としたのかと思ってしまいました。 試しに仮留リングにセットしてみるとまさに宝石付きの指輪そのものです。 これぞ偶然が生んだ奇石。 欠点も極まるともはや芸術ですね。
宝石 鉱物標本 7 2020年テッツァライト
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アクアマリン・キャッツアイ/緑柱石
ブラジルの誇る宝石産地、ミナスジェライス州で産出したアクアマリン。 ラウンドカボション型に研磨が施されたルースです。 ハスの葉などに溜まった水滴と見紛うほど透明で、猫目の光条もシャープに映え渡っています。 石自体の透明度に加え、猫目効果の鮮明さを兼ね備えた理想的な一石です。
宝石 鉱物標本 7.5~8 2013年テッツァライト
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〇〇水系の高温緑石英/グリーンベータクォーツ
これまでに採集した高温石英の中でも特に変わり種で、こんなのも採れるのかと正直驚いてしまった風変わりな一石です。 https://muuseo.com/tezzarite/items/96 大きさは先に展示した結晶を上回る7㎜級。 エッジは摩耗し結晶面は抉れシルエットはやや崩れていますが、六角形かつソロバン玉の形状から高温石英であることが分かります。 しかしこの石の特筆点は大きさなどではありません。 そう、タイトルのもある通り "色" です。 なんと面白いことに他の結晶に見られない濃緑色を呈していたのです。 このミドリ色は当然ながら石英自身の色ではなく、結晶の内部に取り込まれた他の鉱物に起因するものです。 その "他の鉱物" の正体については肉眼鑑定なので定かではありませんが、大抵は「緑泥石」や「緑閃石」「灰鉄輝石」といった緑色鉱物が原因なのでそれらの内のどれかであると思われます。 この緑水晶は、草花の茂る岸辺を散策していたところ保護色のごとく周囲に溶け込むように転がっていました。 はじめ石英だとは分からず、色味の印象から野ウサギの糞に見えてしまったのはここだけの話です。
宝石 鉱物標本 7 2020年テッツァライト
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〇〇水系の高温石英/ベータクォーツ
普通 "水晶" あるいは "石英" と聞いて真っ先にイメージする姿というと、恐らく削った鉛筆のような先端の尖った六角柱の結晶が殆どだと思います。 しかし彼らのように柱面を著しく欠いた特徴的な結晶形の者も存在します。 それが約573~867℃の高温条件で晶出した『高温石英』です。 思えば3月上旬。 雪の融け残る山間を訪れ、川底の砂泥からこの特異な結晶を見止めた瞬間から探求が始まります。 https://muuseo.com/tezzarite/diaries/11 それから長閑な谷川に通い詰めること数ヶ月。 最初の漁り場から上流1㎞ほどの範囲を探しまわり、ようやく数粒の理想的な結晶を見つけることができました。 まずは大きさ。 見つかる結晶は精々1~3㎜程度といったものが殆どでしたが、1枚目の標本は堂々た5ミリ級。 6枚目の上部に映っている結晶に至っては軸長6㎜にも達していました。 次に透明感。 実は5㎜以上の結晶にもちょくちょく遭遇したですが、そういった個体の悉くが亀裂もしくは不純物だらけ。 お世辞にも美しいとは呼べぬものばかりでした。 そんな中、大きさと透明度を兼ね備えた彼らは奇跡の存在であります。 加えて形状バランス。 結晶面のひとつひとつがほぼ均等な大きさで揃っており、結晶軸にも偏心がありません。 そのため上下の六角錐が鏡写しになっていると錯覚するほど対称性に優れています。 また多少の欠けこそあるものの致命的な欠損には至っておらずソロバン玉のシルエットはしっかり保たれています。 総じて様々な要素が小高く纏まった合格品。 かの有名な千本峠産にも匹敵する美結晶であると思います。 これまでは形が綺麗なのに極小サイズだったり、5㎜以上だけれど欠けが多かったり…といった調子が殆どであったものですから、見つけた瞬間は最高に嬉しかったです。 山が育み川が運んだ水の結晶。 恵んでくれた自然に感謝です。
宝石 鉱物標本 7 2020年テッツァライト
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ノーオイルエメラルド/緑柱石
紀元前より人類史に登場し、かの有名なエジプトの女王・クレオパトラ7世も愛したと伝えられる高貴な結晶です。 発色因子として微量のクロムやバナジウムを含有し、鮮やかな緑色を呈したベリルが『エメラルド』と呼ばれます。 新緑のかおり爽やかに漂う5月の誕生石です。 この鉱物を宝石として評価する場合、重視される要素は輝きより寧ろ "色"。 そのため、彼のように緑味を広く平面的に見せるための研磨形が適用されます。 丹念に研磨されたテーブル面は静止した水面のように澄み渡り、目だけでなく心まで鎮めるかのようであります。 ちなみにこちらのエメラルド。 タイトルに「ノーオイル」と付けているとおり、油浸の痕跡が確認されなかった無欠の一石であります。 天然エメラルドには必ずと言って良いほど亀裂が内在するため、これに油剤を浸透させキズを視認し難くする「オイル含浸」が施されるのが一般的です。 そういった改善処理が通例となっている中、オイルを浸透させる必要がない(或いは内部に浸透して行かなかった)ほどに無疵な個体に出会えたことは大変な喜びでありました。 #ベリル
宝石 鉱物標本 7.5~8 Al₂Be₃Si₆O₁₈テッツァライト
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千本峠の高温紫石英/ベータクォーツ
カットビーズのような姿をした『高温石英』の重六角錐です。 ほんのりと紫色に色づいているのがなんとも可憐であります。 あまり一般的には知られていませんが、石英/水晶には "低温型α" と "高温型β" の区別が存在します。 『低温型』は573℃より低い温度で生成された石英のことで、図鑑などで頻繁に掲載されているオーソドックスな六角柱状の結晶はこのタイプに分類されます。 対して『高温型』は約573~867℃の条件下で晶出したものを指します。 低温型とは結晶構造が異なる(低温型:三方晶、高温型:六方晶)ほか、外観的にも大きな違いがあります。 普通の水晶ならあるはずの柱面が丸っきり存在せず、代わりに両端にある六角錐同士をそのまま直結させたような姿をしているのです。 その独特な形状はしばしば "そろばん玉" にも例えられます。 このような違いが現れる要因は、石英の主成分である二酸化ケイ素の性質にあります。 二酸化ケイ素は、一定の組成のまま結晶構造のみを変化させる「同質異像」の性質を持っています。 そのため圧力や温度の条件によって原子配列が流動的に変化し、異なる姿の鉱物へと転移するのです。 ちなみにこちらの展示について、タイトルに高温型と銘打っているもののひとつ落とし穴があります。 実を言いますと高温型の安定相は573℃以上の環境でありますので、その温度以上でなければ高温型としての結晶構造を保っていられません。 すなわち573℃から冷却してしまうと相転移を起こし、低温型の結晶構造へと変化してしまうのです。 ましてや私たちが暮らしているような常温の環境に置かれているのであれば尚のこと。 こちらに展示している結晶も外観こそ高温型の形を留めているものの、内部的には低温型へと変化してしまっているのです。 単純なものほど奥が深いとはよく言われますが、石英という鉱物を調べているとそのことを実感します。 彼らの多様性は群を抜いています。 #国産鉱物
宝石 鉱物標本 7 2014年テッツァライト
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ボロビエバイト/アルカリ緑柱石
セシウムを含有しているという…触れ込みで流通していた緑柱石で、アルカリ元素を含有していることから『アルカリベリル』とも呼ばれているものです。 "Vorobievite" とは本来であれば無色あるいはピンク色の緑柱石―すなわちセシウムに富むゴッシェナイトとモルガナイトのことを指す異名だったようで、一昔前の書籍の中にはそのような記載も確認できます。 しかし近年見かけるようになったこのアフガニスタン産のベリルに対してもその名が用いられているようです。 とは言えよくよく調べるとこの石自体のセシウム含有量はとても低いようで、ボロビエバイトの名は飽くまでも商品名として用いられている節があります。 緑柱石は色によって呼び名が変わる鉱物で、例えば緑色であればエメラルド、水色であればアクアマリンといったように区別されます。 こちらの石もまた冷徹な青色を呈しており、ともすれば単なるアクアマリンなのではないかと思ってしまうところです。 しかし通常の緑柱石の多くが柱面の発達した縦長の形状に成長するのに対し、こちらのボロビエバイトは薄板の形状をとっているのが個性的です。 また結晶内部には霜柱を思わせる繊維状組織が観察できることから、通常のアクアマリンとは明らかに異質な存在であることが伺えます。 このような六角板同士が密集し重なるように群晶となった姿は八重咲きの花そのものです。 花を象る鉱物として代表的なものに石膏や重晶石の「デザートローズ」や赤鉄鉱の「アイアンローズ」が挙げられます。 どれも大変美しい結晶でありますが、色彩的な観点で言えばこのアイスブルーの華々しさには及びません。 やはり花は色鮮やかであった方がより心惹かれるのであります。 #ベリル
宝石 鉱物標本 7.5~8 2019年テッツァライト
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マルチカラーベリル/緑柱石
不純物として含まれるマンガン(或いはセシウムやリチウム)により、ピンクに色づいたベリルが『モルガナイト』と呼ばれます。 クロム由来の緑色ベリル「エメラルド」や、鉄由来の水色ベリル「アクアマリン」らとは色違いの同種にあたる鉱物です。 一方で、何物にも染められていない純潔な個体は『ゴッシェナイト』。 実際には完全な無垢というわけではなく発色に至らない程度の不純物を含んでおり、特にセシウムを内に秘めていることが多いとのこと。 しかし地質由来の微量元素の影響を受けやすく何らかの色味を帯びて産出することが多いベリルにとって、無色透明な姿はある意味珍しいことでありましょう。 こちらはそのモルガナイトとゴッシェナイトが1:1となるように切り出したものであると思われます。 丁度半分が淡く桜色に染まっており、何とも心温まる色相を織りなしています。 彼らの内部を注意深く観察した結果、水溶液と気泡からなる「二相インクルージョン」が無数に閉じ込められていることが分かりました。 石を傾けることで気泡が動く様子がしっかりと確認できます。
宝石 鉱物標本 7.5~8 2018年テッツァライト
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エメラルドキャッツアイ/緑柱石
《当館の2019年投稿アイテムいいね!No.1》 千里を見通すごとく清澄なこの翠眼は、言わずと知れた宝石界の女王。 ベリルの中でもクロム(或いはバナジウム・鉄)を含有し、美しい緑色を呈したものがエメラルドと呼ばれます。 和名で『翠玉』とも称される5月の誕生石です。 ベリル群、延いては緑色鉱物の中でも格別の知名度を誇っており、古くから五大貴石の一角を担ってきました。 古代エジプト女王・クレオパトラ7世もこの石を溺愛し、鉱山そのものを手中に収めていたというお話はとても有名です。 こちらは光学効果『シャトヤンシー』の現れた、猫目タイプのエメラルド。 石の内部で光が反射し、それが球面に収束して瞳孔を成す様がしっかりと確認できます。 何かと "眼" に纏わる伝承の多い宝石なだけに、このキャッツアイとは運命的な取り合わせなのでしょう。 ミューゼオ展示にあたり初めてこのエメラルドを写真に収めてみましたが、実に蠱惑的な輝きを見せてくれました。 こんな美しい女王様のためならば私は喜んで下僕になりましょう。 #ベリル #キャッツアイ
宝石 鉱物標本 7.5~8 2013年テッツァライト
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パープルターフェアイト/ターフェ石
紫色の美しい石ですが、彼の特筆すべき点は発見された経緯にあるでしょう。 1945年、アイルランドの宝石愛好家であったリチャード・ターフェ伯爵がスピネルのルースを観察していたところ特異な点を発見。 淡紫色のスピネルと思われていたその石が、立方晶系のスピネルには在り得ない「複屈折」を示していたことに伯爵は違和感を覚えたのです。 その後の詳細な測定と専門機関の検査により新種であることが判明。 発見者に因み、その鉱物は『ターフェアイト』と命名されました。 このようにカッティング石から新種が発見されるなど前代未聞であります。 そのようなエピソードから興味を持ったこともあり、マイナー石ながらも心惹かれるものがあったのでした。 とは言うもののターフェアイトの示す複屈折率など微々たる数値で、とてもではありませんが肉眼判別できるほど劇的なものではありません。 そのような中で微々たる光学的差異に着目した観察眼の鋭さには、ただただ敬服するばかりであります。 ターフェ伯爵が発見者でなければこの石はどのような名前になっていたのか・・・あるいは新種と認識されずにスピネルと混同され続けていたかもしれません。 探求の眼差しが、ある一石の運命を変えたことは間違いないでしょう。
宝石 鉱物標本 8~8.5 2018年テッツァライト
