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Phacops imitator (cephalon)
アイフェル (Eifel) 地域産のファコプス類、ファコプス・イミタトル (Phacops imitator) の頭部標本です。部分化石でありますが、本当にアイフェル産かなと思うほどに保存状態は良好です。 呼び慣れたファコプスという名称が、学名としては、モロッコや北米を中心にどんどんと消えていく中、残った数少ない正式なファコプス属であります。頭鞍には、まるで大仏様の螺髪のような、比較的大きくて丈が低い顆粒を認めます。複眼の縦列あたりの眼の数は、4-5個程度と標準的 (?) です。ファコプスのど真ん中のような見た目をしている種という気がします。 私は所有していませんが、他にもアイフェル地域には、ファコプス・ラティフロンス (Phacops latifrons) という、有名なファコプス属のtype species (模式種) がおります。本種はラティフロンスも含め、アイフェルファコプス属の中では、最も古い時代の層から産出する種であります。 私は、この地域の三葉虫の産出量にはあまり詳しくないのですが、この標本は、私が三葉虫の蒐集を始めてから、市場で見かけた唯一のイミタトルの標本です。そういうわけで、多分かなり希産なんじゃないかという事で、レア度は差し当たり星4つとしてみました。
Devonian - Üxheim, Eifel region, Germany Phacops imitator (cephalon)trilobite.person (orm)
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Dalmanites caudatus
英国三葉虫のダルマニテス・カウダトゥス (Dalmanites caudatus) です。詳細産地は不詳ですが、おそらくマルヴァン (Malvern) 産なのではないかと思います。 全体が残る良品ではありますが、比較的古い時代に採取されたものなのか、表面の状態はやや荒れており保存状態は最良というほどではありません。複眼も潰れてしまっていて、残念ながら残っていないようです。 英国ダルマニテスには、代表的には本種以外に、ダルマニテス・ミオプス (Dalmanites myops) とダルマニテス・グリンドロディアヌス (Dalmanites grindrodianus) という種がいます。これらは、頭部の吻の出っ張りのある無しや尾剣の長さなどで分けられると思うのですが、特にカウダトゥスとグリンドロディアヌスの違いは微妙な気がします。 この標本名は、差し当たりご提供元に準拠していますが、調査の結果、また標本名を変更するかもしれません。悪しからず。 他の地域の類似種としては、米国NY州のダルマニテス・リムルルス (Dalmanites limulurus) が有名で、色合い以外は瓜二つです。 本種はダドリー・バグの一つですが、他のバグと比較すると、市場で見かける機会はやや多い印象があります。灰色の母岩に、茶色の標本本体と落ち着いた色合いの、年季を感じる標本です。
Middle Silurian - Worcestershire, UK Dalmanites caudatustrilobite.person (orm)
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Modocia whiteleyi
アメリカで多産するModocia属の中でも、こちらはウィークス (Weeks) 累層産のモドシア・ウィテレィ (Modocia whiteleyi) です。 この地の種は全体的に希産ですが、このウィテレィは比較的多産する方かと思います。独創的な形状の多いウィークス産の中では、セダリア・ミノル (Cedaria minor) と並び、あまりこれといった特徴を指摘できず、おとなしめの三葉虫です。本種と比べれば、有名種のモドシア・ティピカリス (Modocia typicalis) などは、むしろずっと派手に見えます。 黄色/赤色の母岩が背景であるからこそ種名が判断できるものの、もしも黒色頁岩がバックであったなどとすれば、本種を同定することは極めて困難になるでしょう。 他の同種標本を見ると、どうも微妙に見た目が違う種が混在しているようにも見えるのですが、上記の判別の難しさもあり、それが成長段階の差なのか、種としての差なのか、私には判断できません。 意外に悩ましい種です。
Middle Cambrian Weeks House range, Millard county, Utah, USA Modocia whiteleyitrilobite.person (orm)
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Olenellus fowleri
オレネルス・フォウレリ (Olenellus fowleri) の標本です。 こちらは米国の個人コレクターの方の、オールドコレクションを譲り受けたものです。 オレネルスの仲間はどれも似通っていて、区別が非常に難しいのですが、本種フォウレリは、一目にわかりやすい姿形をしております。幅広い頭部に、頭部の中心に偏った三日月状の眼、そして胸・尾部の長めの棘など、まるでネヴァディア・ウィークシ (Nevadia weeksi) を彷彿とさせる形状をしております。ただそれも、本種では第3胸節の側葉から伸びる長い棘があることで、ウィークシとは容易に鑑別可能です。 オレネルス類は、胸尾部が異常に保存されずらく頭部ばかりの標本が多いのですが、こちらは本種ではほぼ欠損している串状の尾部まで綺麗に残っています。 何より75mmというサイズは本種としては規格外で、10mm程度のオレネルスと比較すると (写真5番目) その巨体感がよくわかるかと思います。存在感のあるプレートです。
Lower Cambrian Pioche Nevada, USA Olenellus fowleritrilobite.person (orm)
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Breviphillipsia sampsoni
石炭紀の三葉虫、ブレビフィリプシア・サンプソニ (Breviphillipsia sampsoni) の標本です。石炭紀の中でも前期にあたるミシシッピアン (Mississippian) 、アメリカミズーリ州の比較的有名な種です。石炭紀産にしては産出量は多く、入手は割合容易です。 同じくシュトウ (Chouteau) 累層産のコンプトナスピス・スワロウィ (Comptonaspis swallowi) は、よく似ていてこの種と対をなします。頭鞍がツルツルのスワロウィに対し、本種はつぶつぶが明瞭で、容易に区別できます。 この標本は小さいながらも、防御姿勢の完全体同種が2体と、他にも尾部や胸部の部分化石や巻貝 (もしくはアンモノイド類) が散らばる賑やかなプレートです。 防御姿勢をとった本種はコロコロとしていて可愛らしいです。
Mississippian period, Carboniferous Chouteau Saline county, Missouri, USA Breviphillipsia sampsonitrilobite.person (orm)
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Crotalocephalus gibbus
デボン紀の芋虫三葉虫こと、クロタロセファルス・ギブス (Crotalocephalus gibbus) です。うねうねとした、今にも動き出しそうな何かの幼虫のような外見は、私的には可愛らしいのですが、あまりにも生々しく、人によっては気持ち悪いという印象を持つ方もいるでしょう。 その衝撃的な見た目で、多くの人々の度肝を抜き、ともすると彼らを三葉虫コレクターの世界に誘った功労種とも言える三葉虫の一つです。私も約10年ほど前に、ミネラルショーで本種の姿を初めて見た際には、つくりものだと勘違いしてしまいました。 この標本は、右頬が欠損してはおりますが、細部のクリーニングは素晴らしく、特徴的な頭鞍の黒い斑点模様 (筋肉付着痕という説あり) 、軸葉表面の小さな突起、尾部中心にある表層の細かな鳥肌様のぶつぶつなど、全て良好に残っています。側葉と尾部のみ浮かせた、最近の流行りの部分的浮かせプレップが施されています。見栄えが良くない事は承知の上、破損が怖いので、購入時の台座に固定したまま今も置いております。 コレクター入門者には驚きの種ですが、他方、年季の入ったコレクターからすれば、多産する本種は見慣れすぎていて、「なんだまたクロタロか」と感じてしまうかもしれません。 しかしそれでも、三葉虫界広しといえど、この独特の造形は唯一無二のものであり、いつまでも色褪せることがない、魅力的な種と言えるのではないのかなと思います。
Devonian - Oufaten area, Morocco Crotalocephalus gibbustrilobite.person (orm)
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Meteoraspis dis
尾部がコンセントのような形状の三葉虫、メテオラスピス・ディス (Meteoraspis dis) です。 一見、尾部以外はそれほど派手でもなく、地味な三葉虫に見えるかもしれませんが、閉鎖有名産地ウィークス (Weeks) 累層の希少種の中でも、一際産出量が少ない種であります。オレノイデス・スカベルンディ (Olenoides skabelundi) やデイラケファルス・アステル (Deiracephalus aster) のような博物館級の幻種を除けば、メニスコプシア・ビーベイ (Meniscopsia beebei) などに並んで、ウィークス最希少種と言えるのではないかと思います。 メテオラスピス・ディスという学名も、どこか格好よいです (2分岐した-dis 流星の盾-Meteoraspisという意味?) 。希少種という情報にも引っ張られているのかもですが、特徴的な尾部や洒落た名前も手伝い、私には特別な種に見えます。 この標本は、色々な人の手に渡った形跡があるのですが、とりあえずは、私のところに落ち着いております。
Middle Cambrian Weeks House Range, Millard County, Utah, USA Meteoraspis distrilobite.person (orm)
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Prionocheilus sp.
何とも面白い、この三葉虫とヒトデの組み合わせは、三葉虫プリオノケイルスの一種 (Prionocheilus sp.) と、ヒトデはおそらくペトラステルの一種 (Petoraster sp.) の共演標本です。 同国オルドビス紀産の大半に言えることですが、風化が進んでいることが多く、本種もぼけっとした荒い標本をよく見かけます。この標本も風化が進んでいるものの、頭部の様子など、比較的細かく観察することができ、本種としては良質な方です。この標本では確認できませんが、体全体に細かな顆粒がある事もプリオノケイルスの特徴のようです。 ほか、本標本は黒い色合いが強いですが、産出場所によって、褐色、黄色などの色のバリエーションも多い印象です。 同国オルドビス紀産としては、クモヒトデ (綱)と三葉虫 (特にSelenopeltisなど) という組み合わせは、よく見かけますが、ヒトデ (綱) と三葉虫というタッグは案外珍しい気がします。 三葉虫が暮らした当時の海底環境の一端がわかるだけでなく、飾っても楽しく、私のお気に入りの標本の一つです。
Ordovician Ktaoua El Kaid Errami, Morocco 60mmtrilobite.person (orm)
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Geesops schlotheimi
一つ前の標本、ネオメタカンサス・ステリフェルと同一の母岩に共存する、ギーソプス・スクロテイミ (Geesops schlotheimi) です。 頭胸部の境でぐにゃりと180度折れ曲がっておりますが、細部はネオメタカンサスに比べても良好に残っています。頭鞍の比較的大粒の顆粒は肉眼でも観察でき、ルーペで確認すると複眼もかなり良好に残っていることがわかります (デジタル一眼レフの調子が不良の為、複眼の写真は撮れておりません。余裕があれば、そのうち写真を追加します) モロッコの種より小型なので、判別は可能かもしれませんが、保存状態の良さからは、モロッコの標本であると勘違いしてしまうかもしれません。
Devonian Ahrdorf formation, Flesten Member Gees, Gerolstein, Eifel region, Germany Geesops schlotheimitrilobite.person (orm)
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Neometacanthus stellifer
ドイツの有名古典的産地アイフェル (Eifel) のネオメタカンサス・ステリフェル (Neometacanthus stellifer) です。モロッコの一般種の、メタカンシナ (Metacanthina) やホラルドプス (Hollardops) にそっくりな種ですが、モロッコ種と比較し、本種は市場で目にする機会が少なく貴重です。 モロッコ類似種と比べると、20mm程度とサイズの小ささが際立ちます。三葉虫マニアのバイブル、"TRILOBITI"にも本種は掲載されていますが、本標本と同程度の大きさであり、他方、他のコレクターの方の標本を参照をしても同サイズです。 この種に限らず、アイフェル産の三葉虫の一部は、モロッコ類似種の縮小版のような種が多いです。当時、ゴンドワナ大陸側のモロッコとユーラメリカ大陸側のアイフェルは、レイク海 (Rheic ocean) を挟んで、向かい合う位置関係にあります。近い位置にある両産地の三葉虫の形態が似ているのは理解できるものの、縮尺だけが異なるという事が実に不思議です。 どのような環境の違いが、モロッコの三葉虫群を巨大化させ、もしくはアイフェル三葉虫群を小型化させたのか、興味深くあります。 本標本は写真5枚目にちらっと写っているように、実は同一母岩に別の三葉虫 (Geesops schlotheimi) も共存する標本です。スペースの都合上、こちらは別途紹介いたします。
Devonian Neometacanthus stellifer No. 184trilobite.person (orm)
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Kaskia chesterensis
ローカルな三葉虫、カスキア・チェステレンシス (Kaskia chesterensis) 。アラバマ州のバンガー塁層 (Bangor formation) という、少々マニアックな場所で産出し、比較的市場に出回る機会の少ない石炭紀の種です。 石炭紀の三葉虫らしく、特徴の少ない楕円形のシンプルな形をしています。 アラバマ州の他、ミシシッピー州やペンシルバニア州など、アメリカ東部エリアの割と広い範囲で見つかるようで、その大人しい見た目に反して、意外に分布域の広い種であったようです。 この標本は漂白されたような白色ですが、巷の標本を見ると褐色〜黒色の色合いが多い気がします。 本標本は頬部が失われてしまっていますが、不完全ながら全体が揃っており、尾部だけの部分化石が多い本種においては貴重です。 元々、右頬部が残っていましたが、残念ながら輸送中に失われてしまいました。最初の写真は輸送前のものです。
Mississippian period, Carboniferous Bangor limestone Northern Arabama, USA Kaskia chesterensistrilobite.person (orm)
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Asaphus intermedius
ロシア産の標本が少ない当館ですが、こちらは数少ない同産の手持ちとなります。 私は、"かたつむり"三葉虫こと、アサフス・コワレウスキイ (Asaphus kowalewskii) が好みでして、この標本を入手する前には、当初は同種を求めておりました。しかし、直前で眼軸が長いコワレウスキイを管理出来る自信がなくなり、では代替としてとのことで、そんなに眼軸が長くなく、それでいて短くもない、本種アサフス・インターメディウス (Asaphus intermedius) を入手することに決めた、と言う謎の経緯があります。 結果的には、今では本標本はかなりのお気に入りであります。 コワレウスキイに比べると控えめながらも、しっかり飛び出た眼軸、ロシア産特有の美しい見た目、カエルか何かを思わせるコミカルな風貌など、見ていて飽きません。
Lower Ordovician Asery level Vilpovitsy quarry, St.Pertersburg resion,Russia Asaphus intermediustrilobite.person (orm)
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Liolophops sublevatus
ドイツの有名古典的産地アイフェル (Eifel) 産、リオロフォプス・サブレバトゥス (Liolophops sublevatus) の紹介です。 ファコプスの仲間でありますが、モロッコの種々のファコプスや北米のエルドレドジオプス (Eldredgeops) 系と比較して、全体的に細身で体高が低い印象です。それに対して、複眼の全体に占める割合は比較的大きく、頭鞍には細かな顆粒が観察できます。 モロッコの種との比較で言えば、最多種モロコプス (Morocops) やアドリシオプス (Adrisiops) よりも、アウステロプス (Austerops) やボエコプス (Boeckops) が印象としては近いなと思います。 古典的産地であるにもかかわらず、細部まで保存状態が良く残っています。アイフェル産としては、比較的、市場に出回る機会の多い種であるように思いますが、全体数が少なく希産である事に変わりはありません。
Middle Devonian Freilingen Rommersheim, Eifel region, Germany Liolophops sublevatustrilobite.person (orm)
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Olenoides superbus
北米マージャム (Marjum) 産の三葉虫、オレノイデス・スペルブス (Olenoides superbus) です。 オレノイデスは、三葉虫コレクターにとって憧れの種の一つであります。中でもこのスペルブスという種は、巨大な体躯、盛り上がった頭鞍、太くしっかりした軸葉や胸尾部の棘などの要素が揃っており、さらに表面には艶があってとても格好の良い見栄えがする種です。 種小名のスペルブス ("素晴らしい"の意) の名に恥じぬ種かと思います。 この標本は、頭鞍や頬棘のしわ模様などの微細な構造が明瞭に確認できるほか、左胸部上方には治癒痕があります。治癒痕の辺縁は微妙に盛り上がっており、損傷後の治癒過程は、三葉虫でも現生生物と同じなんだなという、ある意味、当たり前のことが確認出来てそれも興味深いです。 提供者からの標本ラベルには、"Long spined" superbusとありましたが、通常のスペルブスと比較して長い棘とは何なのか、今ひとつ私には理解できておりません。
Middle cambrian Marjum Millard county, Utah, US Olenoides superubustrilobite.person (orm)
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Cheirurus sp.
マルヴァン産のケイルルスの一種 (Cheirurus sp.) です。 長年、クテノウラ・レトロスピノサ (Ktenoura retrospinosa) としてきたのですが、最近、ケイルルス・セントラリス (Cheirurus centralis) の可能性もあるんじゃないかと思い始め、差し当たり、何らかのケイルルスという事で保留としております。 頭鞍が顆粒等に覆われておらずツルッとしており、自由頬にも、やや細かい顆粒があるのみです。 頭鞍/頭鞍葉の形状などからは、また別のケイルルスであるプロロマ (Proromma sp.) とは、少なくとも本種は異なるのではないかなと考えております。種の判断材料になったであろう尾部は、残念ながら失われてしまっており、それが鑑別をより難しくしてしております。 いずれにせよ、英国産のケイルルスは市場に出回る機会が非常に稀で、希少な標本と言えるかと思います。 本標本のアピールポイントとしては、珍しくハイポストマ (hypostoma) が某出されており、その形状がしっかり観察できます (写真4枚目) 。ハイポストマには、これといった特徴はなく、角が丸い三角形をしており、表面には特に目立つ顆粒等はありません。 全体的な構図としては、母岩をよっこらせと登っている最中であるかのような動きを感じる標本で、コミカルな印象をうけ可愛らしいです。色々な意味でお気に入りの標本です。
Wenlock series, Silurian Malvern,Worcestershire, UK Cheirurus sp. 35mmtrilobite.person (orm)
