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Austerops salamander (?)
こちらは、確定的ではないですがモロッコのアウステロプス・サラマンデル (Austerops salamander) の可能性が高いのではないかと思われる標本です。 一時期、モロッコのファコプス類 (モロコプス、ボエコプス、ファコプス、アドリシオプス属など) の鑑別に凝っており、その一部の種の分類を、記載論文を参考にしつつ、私のブログなどで特集しておりました。その際、特に、アウステロプスを取り上げきれていないのが心残りでした。 この標本は実は2年ほど前に入手したのですが、何の種かよくわからずそのうち調べようと思い、どこにも公開せず死蔵しておりました。今回ふと思い立ちもう一度真面目に調べたところ、最初に抱いた印象通り、やはりアウステロプスの一種かなと思いましたので、過去の宿題の部分的な解消がてら、公開することに決めました。 一応はハミープレップとのことで、20mm足らずと小さいながらも、細部の構造がよく確認できます。写真ではよくわからないと思いますので、以下、簡単に特徴を描写しておきます。 頭鞍には細かい顆粒が無数にある一方で、頬部や胸尾部表面はツルッとしております。頭鞍の膨らみは弱め。頬部は狭く後方に角はなく丸みを帯びています。複眼の縦列の数は最大7個前後で、vertical rowで見れば、17-18列あるように見えます。全体的には際立った特徴はないのですが、ファコプス類としては全体的に平坦でかさが低い印象です。 これらの特徴を過不足なく満たすものとしては、アウステロプス・サラマンデルが第一の候補にあがります。各種モロコプス (Morocops) の類や、アドリシオプス・ウェウギ (Adrisiops weugi) 、ファコプス・アラウ (Phacops araw) などはいずれも、特徴が違い過ぎてハナから論外として、他に、パッと見でありうる種としては、 ・Boeckops stelcki (ボエコプス・ステルキ) ・Reedops pembertoni (リードプス・ペムベルトニ) ・Austerops speculator punctatus (アウステロプス・スペクラトル・プンクタトゥス) などが挙げられます。 ただボエコプス・ステルキとしては、側葉と中軸間の結節状構造がない事、頬部の細顆粒がないことから除外的で、リードプス・ペムベルトニとしては、頬部が狭い事、頬部の後部の角張りがない事から可能性は低いのでないかと思います。 アウステロプス・スペクラトル・プンクタトゥスは、流石に同属だけあり見分けづらいのです。ただ、プンクタトゥスの場合、頭鞍の顆粒が疎で、その間に無数のpitsがあるという特徴があります。本種ではそういった要素がなく、むしろ細かな顆粒が頭鞍の全体を覆っています。また複眼の構造も、プンクタゥスとは合わないように見えます。 少々長文になりましたが、そんなわけでこちらは暫定、アウステロプス・サラマンデルと考えております。最も小さいので、若年個体の可能性があり、成熟体と特徴が異なる場合、そこがやや怪しい点ではあります。
Middle devonian - Oudressa area, Morocco Austerops salamander (?)trilobite.person (orm)
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Menomonia semele
ウィークス産の三葉虫、メノモニア・セメレ (menomonia semele) です。 数の少ないウィークス産にしては、セダリア・ミノル (Cedaria minor) に次いで産出が多い種と思います。ただ、比較的地層による影響が少なめのウィークスにしては、捻れた標本、横向きの標本、ボケたような個体が大半で、満足のいく標本がひどく少ない種でもあるように感じます。 この個体は、眼や顔線 (facial suture) 、頭部先端のヘラの細部がよくわかり、頭鞍の2列 x 3の顆粒、中軸の2列の顆粒なども明瞭に観察でき、保存状態がとてもいいです。それだけに、尾部がぐちゃっと、disarticulatedな状態になっている事が少々惜しい点です。 本体に比べれば大きな母岩の真ん中に、ポツンと寂しげに佇むこの構図も、どこかシュールで気に入っています。 一般にはあまり注目される種ではない気がしますが、前方よりの飛び出した寄り目、胸部の節の多さなど、ユニークな形質のセットを持っており、好みのタイプの三葉虫であります。
Middle Cambrian (Series3, Guzhangian) Weeks House Range, Millard County, Utah, USA Menomonia semeletrilobite.person (orm)
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Undetermined species
中国の三葉虫は未だに見たことのない種も多く、根気よく市場のウォッチを続けていると、気になる種がポツポツと登場します。 そんな種の一つ、中国雲南省の保山市 (Baoshan) のShihtian累層産の謎の三葉虫です。雲南のBaoshanといえば近年Pupiao累層の三葉虫が市場に放出されていたかと思いますが、調べる限りでは、Pupiao ≒ Shihtian累層であるように思います。調査不足なので間違っているかも知れず、差し当たり、話半分で受け取っていただけるとありがたいです。また時間がある時にでも、追って報告します。 この産地の三葉虫は面白い形態の種も多く、皆惹かれるのか微妙に競争率が高く入手に苦労します。ebayを見ていると、最近ではDionideやCyclopygeの一種、illaenusらしき種などが、市場に登場しているようですね。 本種は、長い頬棘および尾部の一対の棘をもち、更に尾部後端からも小さな棘を持つようです。目と目の間は離れており、コミカルな顔貌をしております。本体のみで5mm、尾棘含めても8mm程度と、小指の爪の先ほどの非常に小さな三葉虫なのですが、全体的に興味深いフォルムをしており、このサイズなのに存在感があります。 全然時代も産地も異なるのですが、まるで広西チワン族自治区、カンブリア紀末産のGuangxiaspis guangxiensisの幼楯体のようにも見えます。比較用に、手持ちのG. guangxiensisの画像を7枚目に掲載しておきます。 この産地の他の種含め、とても気になる種です。
Ordovician Shihtian Puyi Town, Baoshan, Yunnan, China Undetermined speciestrilobite.person (orm)
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Ectillaenus perovalis
英国のシュロップシャーで産出のエクティラエヌス・ペロヴァリス (Ectillaenus perovalis) です。 エクティラエヌスはモロッコ含め各国で産出しますが、おとなしい見た目の為、あまりクローズアップされることがないように思います。この標本も、地味な英国産の中でも、輪をかけて地味な部類ではあります。 この標本では、泥質の頁岩系の母岩に、うまく黒系の鉱物が集積したのか、更に黒々とした本体が存在感を放っています。表面には艶もあり、地味ながらも、なかなかに美しい標本だなと思っています。 蒐集のだいぶ初期に入手した標本ですが、割とお気に入りでして、今後も放出の予定はなさそうな標本でもあります。
Middle Ordovician (Llanvirn (Darriwilian) series) Hope shales Minsterley, Shropshire, England Ectillaenus perovalistrilobite.person (orm)
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Damesella paronai
中国産三葉虫の独特さを体現するかのような種、ダメセラ・パロナイ (Damesella paronai) です。 大きく見れば、一応リカスの仲間 (Lichida) ではあるものの、ダメセラ上科 (Dameselloidea) に分類され、その見た目は、俗に言うリカスとは程遠い存在です。むしろ、同じ累層 (Kushan fm) で産出する蝙蝠石 (Neodrepanura premesnili, Blackwelderia sp. ) のうち、特に後者が、本種に似通っているように思えます (後者は、完全体が未だ見つかっていないので、あくまで尾部のみの比較ですが)。実際、分類上も、蝙蝠石は、同じダメセラ上科/科に属す近縁種であります。 ダメセラはフォルムが魅力的で、サイズも大きく見栄えが良く、蒐集初期からかなり気になる存在でした。しかし、当時は滅多に出回らなかった上、僅かに見かける標本は、非常にクリーニングの質が悪くその割にやたら高価という事で、敬遠しておりました。近年欧米の工房でクリーニングが為され、全体像がようやくはっきりすると同時に、それがきっかけになってか、多数の標本が市場に出回る様になりました。ただ、中国三葉虫の常として、遅かれ早かれ市場から姿を消すのではないかと予想しています。
Middle Cambrian (Wuliuan? ) Kushan Near Linyi, Shandong, China Damesella paronaitrilobite.person (orm)
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Orygmaspis spinula
マッケイ (McKay group) 産出のオリグマスピス・スピヌラ (Orygmaspis spinula) と思われる標本です。 マッケイの種々のオリグマスピスのうち、個人的には、本種はオリグマスピス・マッケラリ (Orygmaspis mckellari) と、かなり見分けづらいと思っています。ただ、マッケラリと比較すると、スピヌラでは、胸部の横幅が幾分スリムでその外縁は直線的、さらに胸部の棘の湾曲も弱く、直線的であるように思います。 本種は元々、Orygmaspis sp.として入手しましたが、いくつかの特徴から暫定スピヌラと考えております。
Upper Cambrian (Furongian, Jiangshanian) McKay Group British Columbia, Canada Orygmaspis spinulatrilobite.person (orm)
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Nileus platys
ニレウスといえばロシア産の人気種、ニレウス・アルマジロ (Nileus armadillo) が有名ですが、近隣のスウェーデンやノルウェーでも似た種を産出します。 特にスウェーデンの南部に点在する産地には、オルドビス紀中期 (ダーリィニアン) の地層が広がっており、ロシア産の相当する三葉虫の類似種が少量ながら出ます。本種はそのうちの一つ、ニレウス・プラティス (Nileus platys) であります。この地域の三葉虫は、ロシア産ほどには保存が良くなく、この個体のように外殻が剥がれた標本が大多数です。 このプラティスのフォルムはアルジマジロそのままで、茶〜褐色に色付けしたような見た目をしています。ダンゴムシのように、コロコロと丸まっていて可愛らしい標本です。手持ちだった同スウェーデン産のイラエヌス・サルシはなんとなく手放してしまいましたが、本種は愛着があり、手元に残しました。
Middle Ordovician (Darriwilian (Llanvirn) ) - Ljungsbro, Oestergoetland, Sweden Nileus platystrilobite.person (orm)
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Olenoides vali
ユタ州のマージャム累層 (Marjum fm) より産出する、オレノイデス・バリ (Olenoides vali) です。 オレノイデスの中でも、全体的に長い棘を持つ事が特徴的で、頬棘、尾部の対の棘及び、額環 (Occipital ring) や第8胸節の中軸から伸びる棘は、長くて目立ちます。 各所の標本を見るに、マージャム累層産とされるものと、マージャム下層のウィーラー累層産とされるものがあって混乱するのですが、ウィーラー累層の上部110m近辺層 (本種の産出層) を、マージャムに分類するかどうかで判断が分かれるようです。公式にはウィーラーが正しいようですが、差し当たり、入手時記載の累層のままとしております。 また、この標本は、元々、オレノイデス・ルークシ (Olenoides rooksi) の名で入手しましたが、コメント頂いた方々のご協力により、現状はやはりバリであると思い直し、この名で登録しております。 実際本種は、棘の長さにかなりのバリエーションがあり、ルークシは特に尾棘の長い種に非公式に適応されます。ルークシは現在のところ、裸名 (nomen nodum) の範疇ですが、将来的には、亜種〜新種として記載される可能性はあるようです。
Middle Cambrian (Miaolingian, Drumian) Marjum Delta, Millard county, Utah, USA Olenoides valitrilobite.person (orm)
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Trinucleus fimbriatus
イギリス、ウェールズ地方のランドリンドッド・ウェルズ産のトリヌスレウス・フィンブリアトゥス (Trinucleus fimbriatus) の標本です。 属名からも分かる通り、トリヌクレウス超科 (Trinucleoidea) に属しております。この仲間は、長い頬棘、丸い外形、頭部辺縁の多数の小孔を特徴とし、特にモロッコのオンニア (Onnia superba) やデクリボリサス (Declivolithus titan) などが特に有名です。 イギリスには非常に多くのこの仲間がおりますが、頬棘がなく外殻の状態が悪い標本が大多数を占める事から、一見地味に見えてしまい、積極的に集めるコレクターは多くはありません。しかし、長い頬棘の残る保存の良い標本は、美しく、かつ面白くもある外見をしており、決して軽視できる種類ではありません。 本種もほとんどの個体で頬棘などは失われておりますが、この標本は頭胸部などが非常に立体的で、辺縁の小孔や頬棘の先までもがしっかり残っており、実に見応えがあります。
Lower Ordovician Mudstones Llandrindod Wells, Powys, Wales, UK Trinucleus fimbriatustrilobite.person (orm)
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Cummingella mesops (grabella & pygidium)
新潟県の青海の美しい石灰岩から産出する、おそらくカミンゲラ・メソプス (Cummingella mesops) の頭鞍、および尾部と思われる標本です。画像1-5 (頭鞍標本) と6-8 (尾部標本) が別の母岩です。尾部標本は小さく分かりづらいのですが、ぷっくり膨らんだ頭鞍はよく目立ち、まるで、貝類か腕足類の一部のようです。 完全体はもちろんの事、頭部全体が残る標本すら極めて稀と思われ、大半が頭鞍や尾部のみの標本であるようです。全貌が掴みづらい種ですが、オンライン上の頭部全体が残る標本などを確認するに、頭鞍のサイズの大きさが目立ちます。 カミンゲラ自体、ツルッとした比較的大きな頭鞍を持つ種です。ただ、本邦で産出する本種は、中でも目立つ頭鞍を持っていたのかもしれず、興味を唆られます。 実際、記載論文 (Kobayashi and Hamada, 1980) でも、『Cephalon massive, parabolic in outline, strongly convex, most elevating in anterior of glabella‥』→『頭部は巨大で, 外形は放物線を描き、強く凸状になっていて、頭鞍前方で最隆起する‥』などという書き出しで始まっていて、大きく特徴的な頭部を持っていたようです。
Carboniferous - 新潟県西頸城郡青海町 (糸魚川市) Cummingella mesopstrilobite.person (orm)
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Gabriellus sp. & unidentified organism
カナダのブリティッシュコロンビア州の、アタングループ (Atan Group) で産出するガブリエルスの一種 (Gabriellus sp.) です。 オレネルス科ではあるものの、属レベルではガブリエルス属であるように、通常のオレネルスとはやや異なる雰囲気の見た目をしています。特に、一般的なオレネルス (属) の半円状の頭部とは異なり、頬棘の付け根が前方に移動しており、五角形〜菱形の頭部を持ちます。 近年は市場で見かける機会が少なくなった種ですが、他のオレネルス同様に体のパーツが極めて保存されづらい為、大型で良質な個体は、過去には高価格で取引されておりました。 この標本では、三葉虫の右下に隔壁状の体と吻のような構造を持つ、ワームのような生物が共産しており、それがまた面白くあります。
Lower Cambrian (Stage3) Atan group British Columbia, Canada Gabriellus sp.trilobite.person (orm)
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Kendallina greenensis
カナダのマッケイグループ (McKay group) のケンダリナ・グリーネンシス (Kendallina greenensis) です。 胸棘の目立たない、細長くすらっとした体型をしております。一見、地味で見分け難い種に見えます。ただ、マッケイの各種Orygmaspisなどの類似種は、幅広であったり、多かれ少なかれ胸棘を持っていたりする為、マッケイの中で比較してやれば、逆に同定し易い種であります。 この標本ではやや分かりづらいですが、尖った頬棘を持つ事も、本種の特徴の一つです。より細かく見れば、頬棘の根本がやや太く短めの本種と、根本から細く長い、ケンダリナ・クラシテスタ (K. crassitesta) という種が居るようです。
Upper Cambrian (Furongian,Jiangshanian) McKay Group site1, near Cranbrook, British Columbia, Canada Kendallina greenensistrilobite.person (orm)
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Gerastos cuvieri
ゲラストスという種は、小さくて派手でもなく、比較的安価に入手できるので、モロッコ産三葉虫の中では軽視されがちです。しかし実際は、種類も多様で案外奥が深く、何より可愛らしい種であります。 こちらはモロッコ産ではなく、ドイツのGees産のゲラストス・キュヴィエリ (Gerastos cuvieri) です。見た目はモロッコの類似種に似ておりますが、やはり一回り小さい印象があります。 目に艶がありキラキラしているので、まるで生きている小さな昆虫のようです。母岩の端でくるりと丸まっており、実に愛らしい標本です。
Devonian Ahrdorf Gees, Geroltstein, Eifel, Germany Gerastos cuvieritrilobite.person (orm)
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Nevadia weeksi
ネバダ州の名を冠する三葉虫、ネヴァディア・ウィークシ (Nevadia weeksi) です。ネガポジあり、1-4がポジ、5-6がネガの標本です。 産出のあるCampito累層は、時代的にはカンブリア紀前期のSeries2のstage3に相当し、同エスメラルダ郡のPoleta累層などと並び、アメリカで三葉虫が出る層として最古級です。 広い意味でのオレネルスの仲間 (オレネルス亜目) ですが、寄り目に、幅広い横幅、胸部の密集した棘と、非常にはっきりした特徴を持ち、一目で他の類似種との区別が可能です。それらの要素の組み合わせと、おそらく微妙に燻んだ体色も手伝い、全体的にとても不気味な印象を受けます。目立つ種ゆえにコレクターの人気も高い為、マニアによる放出も少なく、全体が残った標本は非常に希少です。 この標本は尾部を欠損しております。好みの種なので、出来れば完品が欲しいなとずっと思っていますが、本標本を入手した7年前 (2023年時点) 以来、これ以上の標本を市場で見かける事はなく、ずっと更新できずにおります。
Lower Cambrian (Series2, stage3) Campito Near Silver Park, Esmeralda Country, Nevada, USA Nevadia weeksitrilobite.person (orm)
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Lochmanolenellus pentagonalis and Elliptocephala sp. (cephalon)
こちらは、無数の三葉虫の頭部が、母岩中に佃煮状に散らばる興味深い標本です。 ネバダ州のポレタ累層の産です。最もサイズの大きな頭部は、ロクマノレネルス・ペンタゴナリス (Lochmanolenellus pentagonalis、画像3)、及び、エリプトセファラの一種 (Elliptocephala sp. 、画像4) であると思われます。 特にペンタゴナリスは、intergenal spineが前側に移動、かつ巨大化し、まるで二つの頬棘があるように見える面白い種あります (最も大きな頭部の標本は、intergenal spineを欠損しております) 。トラペゾイダリス (L. trapezoidalis) として登録しておりましたが、現在は、形状からペンタゴナリスの可能性が高いと考えております。 他にも、主にロクマノオレネルスの一種の幼体の頭部と思われる部分化石が、プレート中に20体近く散りばめられており、観察しがいのある標本であります。画像8は母岩の裏側です。
Lower Cambrian (Series2, Stage3) Poleta Montezuma Mountains, Esmeralda County, NEVADA, USA Lochmanolenellus pentagonalis / Elliptocephala sp.trilobite.person (orm)
