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Misszhouia longicaudata
ユネスコ世界自然遺産(澄江の化石産地/2012年登録)から産出した驚異的な保存状態のNaraoiaです。これだけ見ると、ウミウシみたいで三葉虫には見えませんが、良く見ると軟体部だけの化石と分かります。鰓肢と歩肢の構造が良く分かり、現生の甲殻類と同じように絶え間なく動かしていた様子が目に浮かびます。背中の外殻で分離したのでなく、殻の内側の軟体部で分離すると、この様な産状になるそうですが、この様な保存状態は、澄江であっても多くはありません。 (中国名:長尾納羅虫)
Middle Cambrian Naraoiidae,Nektaspida TRI-214-2 HeilinpuTrilobites
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Damesella paronai
古くから知られる種で、独特の存在感の本種は、所属する科も含め孤高の存在です。非常に硬質の母岩という事もあり、昔は状態の良い個体は見かけませんでしたが、近年、欧米の工房により現在の技術で剖出された状態の良い個体が出回るようになると、細かい顆粒に覆われ、平坦ながら鋭い棘を発達させている姿は、より一層存在感のある姿となっています。しかしながら産地情報など未だに謎に包まれ、知られる割に情報を得る事ができない謎の種類です。
Middle Cambrian Damesellidae,Dameselloidea,Lichida TRI-523 KushanTrilobites
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Eokochaspis piochensis
Eoptychopariaとも呼ばれていた初期のPtychopariida(科)の仲間ですので、Ptychopariida(科)系の先祖と思われます。Piche shaleの中でもComet Shale Memberと呼ばれる層から産出される様です。平面的で短めの頬棘以外に目立った棘も無く、眼も確認できない特徴の乏しい種類です。同じ産地から4種類ほど記名されてはいるのですが、比較できるほどの個体数や状態の良い標本が少なく、同定は困難で最も古くから認識されていた本種が代表種の様になっています。
Middle Cambrian Ptychopariidae,Ptychoparioidea,Ptychopariina,Ptychopariida TRI-459 Pioche shaleTrilobites
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Paradoxides davidis trapezopyge
三葉虫コレクターのバイブル的な図鑑である「THE TRILOBITE BOOK」では、多くのページを割いて紹介される特別な存在として知られます。本種の初期にして完成された優美な姿と迫力ある大きさは、記名者で著者のRiccardo Levi-setti(1927-2018)だけでなく、多くのコレクターも魅了される存在である事に異議はありません。著書の中でも詳細が触れられていますが、P.davidisは、4つの亜種に細分され、素人目でも判断できるのは尾板の大きさで区別できます。本標本は、最も尾板が大きな亜種という事になります。産状として剥がれ易い母岩全体に幾つかの個体が折り重なる様に重なり、実物を見ると図鑑の様な完全な標本など奇跡的といえる状態である事が理解できます。元々崩れやすいカンブリア紀の大型三葉虫なので、この標本の状態でも一般的に入手できた中では最上位クラスであります。 [Left side:Negative,Right side:Positive] 【参考リンク】「Phenotypic variation in the Middle Cambrian trilobite Paradoxides davidis SALTER at Manuels, SE Newfoundland. 」 https://paleoarchive.com/literature/Bergstrom&Levi-Setti1978-PhenotypicVariationParadoxidesDavidis.pdf
Middle Cambrian Paradoxididae,Paradoxidoidea,Redlichiina,Redlichiida TRI-734 Manuels RiverTrilobites
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Acadoparadoxides briareus
一般的に入手可能な三葉虫の内、最大級の大きさを誇るのが本種です。私の全コレクションの中でも最も大きな三葉虫です。片側10㎏を超える重さのため、撮影の為に標本箱を下ろしたり、移動したりするだけでクタクタになる程です。Paradoxididae(科)の仲間は、チェコ、カナダ等広い範囲で産出し、何れも大型になりますが、モロッコ産の巨大さは群を抜いている様に思えます。A.mureroensis(Sdzuy, 1958)が最も知名度がある種名ですが基本的には出回る標本の大きな個体は本種と思われます。2010年代以降に大きさによる細分化が行われ、A.nobilis(SDZUY,1958)やA.levisettii(Geyer and Vincent, 2015)など小型の種類も同定されるようになりました。本種は、見た目のインパクトが大きくインテリア等の一定の需要があるため、模造品や補修品が多く流通しています。個人的に真贋を見分けるポイントとして、綺麗すぎない事やAcadoparadoxides独特の側葉部の成長線がある事が挙げられます。長年市場を見ていますが、10万以下で買える様な標本にレベルの高い標本は先ず無いと感じます。 [Left side:Negative,Right side:Positive]
Middle Cambrian Paradoxididae,Paradoxidoidea,Redlichiina,Redlichiida TRI-146 Jbel WawrmastTrilobites
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Cambropallas telesto
カンブリア紀モロッコ産の二大大型三葉虫の小さい方というイメージでしょうか。大きい方のAcadoparadoxidesは30cmを超える巨体で、分類的にはParadoxididae(科)に対し、CambropallasはHolmiidae(科)でOlenellina (オレネルス亜目)に近い系統にあります。モロッコ産が市場に登場した初期から知られ、以前はAndalusianaと呼ばれている個体と混同する事もありましたが、流通している標本は基本的に同じ種類を指していると考えます。背部中央の特に後半に鋭く短い棘が立っているのが大きな特徴です。大型の種類は補修が入っている事が多く、時には完全に模造品も見かける程です。本種も一定以上のレベルの標本は特定の供給元からしか入手できなかったり高価になったりします。完全体は本当に少ない種類なのですが、模造品と見分けるには細部の状況の確認、ポジティブとネガティブが両方揃っていると信憑性は増します。 [Left side:Negative,Right side:Positive]
Middle Cambrian Holmiidae,Olenelloidea,Olenellina,Redlichiida TRI-45 Jbel WawrmastTrilobites
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Misszhouia longicaudata
ナラオイアの仲間を三葉虫の分類に含めて良いのかという結論は出てはいません。一般的な三葉虫の様に炭酸カルシウムの硬質の外骨格を持たなく、胸部と尾部が一体で頭部と二分割する構造は、外観上、明らかに別物であると見方もできます。但し付属肢(鰓脚)は、三葉虫とほぼ同じであり懸け離れた分類でも無さそうです。澄江動物群のMisszhouiaは、普通の産地では化石化できないであろうナラオイアの様な軟体部を保存できている貴重な産地で、言わずと知れたユネスコ世界自然遺産(澄江の化石産地/2012年登録)です。澄江のナラオイアは、大型の本種と小型で棘が特徴のNaraoia spinosa(Zhang & Hou, 1985)が知られていますが、本種の方が産出は少ないです。 (中国名:長尾納羅虫)
Middle Cambrian Naraoiidae,Nektaspida TRI-214 HeilinpuTrilobites
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Jenskinsonia varga
この大きさで何かの幼体とかではなく、成体です。短く鋭い頬棘に卵型の胸部と尾部、見た目が可愛らしいだけでなく、個性を持っています。この種類自体は、それ程珍しいとは思っていませんが、状態の良い個体を入手するのは至難だと思います。完全な状態に仕上げても高額にはならないですし、小さくて見栄えもしないので人気種とは言えないといった商業的価値が理由で、力を入れて剖出した標本が少ないのではと想像しています。
Middle Cambrian Alokistocaridae,Ptychoparioidea,Ptychopariina,Ptychopariida TRI-116 Wheeler ShaleTrilobites
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Zacanthoides liddelli
カンブリア紀の中では棘で武装していたZacanthoidesの仲間は、幾つか存在が知られ、その中でも本種は比較的近年に記載されています。Z.liddelliは更に2つのタイプが素人でも区別できるので、今後更に細分化される可能性もあります。本標本の様に頬棘が太めで背棘が短いか目立たない、尾棘も長くないタイプ。全体的に面長で背棘と尾棘が長めのタイプも見かけます。
Middle Cambrian Zacanthoididae,Corynexochoidea,Corynexochina,Corynexochida TRI-600 Spence ShaleTrilobites
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Hamatolenus morocanus
カンブリア紀モロッコ産の大型種です。尾部近くまで達する緩く弧を描いた長い頬棘が印象的で、見た目はレドリキアそのものです。分類的には所属するEllipsocephaloidea(科)が、Ptychopariida(目)という考えと、近年ではRedlichiida(目)と分かれていますが、この種類を見ていればRedlichiida(目)という事で良いと感じます。産出量が極めて少ないことで知られ、産地も特定のエリア以外から報告が無い様で、今後も多産する事は先ず無いといって良い種類です。
Middle Cambrian Ellipsocephaloidea,Ptychopariina,Ptychopariida TRI-543 Jbel WawrmastTrilobites
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Menomonia sahratiani
Weeksの新しい研究ですとMenomonia sahratiani(Robison & Babcock, 2011)となりましたが、Nephalicephalus beebeiの名称で馴染みがあります。この標本を超える保存状態の良い本種は余りなく、個人的には最高レベルでないのかと思っています。尾部は極小で胸部が非常に長く、体節が20を超えて数えきれないほど並びます。この種は、三葉虫に余り興味が無い一般の方が見ると、特徴の少ない地味な種に感じると思いますが、三葉虫コレクターであれば一目置く存在の凄い標本だと捉え方が異なると思っています。
Middle Cambrian Menomoniidae,Ptychoparioidea,Ptychopariida TRI-637 WeeksTrilobites
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Meteoraspis dis
この標本は、三葉虫コレクターのバイブルと言える「The Back to the Past Museum Guide to TRILOBITES」に掲載されている本種の世界的代表標本であります。本種の特徴は、何といっても尾部の鉤状の1対の短い突起が特徴です。下側の大きな個体は、頭鞍部の中央が埋められている補修がありますが、本種の希少さから欠点にはなりません。
Middle Cambrian Crepicephalidae,Ptychoparioidea,Ptychopariida TRI-534 WeeksTrilobites
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Bathyuriscus rotundatus
Burgess shale(バージェス頁岩)といえば、この地より産出するアノマロカリスやオパビニアなどカンブリア紀の奇怪な生物を産出する地として、一般にも広い知名度があります。その歴史は、20世紀初頭にC.D.Walcott(1850-1927)らにより確認されて以来、軟体部を含む数々の化石の発見により、カンブリア紀の生物相の解明に欠かせない重要な場所です。現在ではユネスコの世界自然遺産地域「カナディアン・ロッキー山脈自然公園群」に置かれ、化石の商業的流出はありません。Marrella以外のバージェスの化石自体が入手困難ですが、三葉虫類はバージェスの中では少数派だったこともあり、状態の良い標本の入手は極めて困難な産地です。バージェス頁岩は、黒色系ばかりでなく黄色系のタイプもあります。本種は、Proetida(目)の中でもBathyuridae(科)というマイナーな所属であったりします。
Middle Cambrian Bathyuridae,Bathyuridea,Proetida TRI-252 StephenTrilobites
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Irinia arcuata
初期のアサフス目の一つで、全体的に丸みを帯びた体形をしております。見た目は、Asaphida(目)の仲間とかけ離れている様に見えますが、頭部の丸さや、これから発達していくであろう尾部も確認できます。裏面には、ネガですがこの地の代表種、保存状態の良いHatangia scitaが3体ほど残っています。シベリアの三葉虫は、近年は見た目だけでは考えられない位に高額化していて、今購入しようとすると驚く金額となっています。世界自然遺産に登録され、(この産出地は登録地ではないとされる)入手ができないという事もありますが、アクセスが全三葉虫産地でも最も厳しいと思われ、調達コストが非常に高いのも一因かと思います。
Middle Cambrian Anomocaridae,Anomocaroidea,Asaphida TRI-88 Mayan stageTrilobites
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Elrathina cordillerae
古生代に興味が無い一般の人でも知っているBurgess shale(バージェス頁岩)の化石です。言わずと知れたカンブリア紀の生物大爆発の貴重な生物群であり、「カナディアン・ロッキー山脈自然公園群」としてユネスコの世界自然遺産に登録され、現在は厳重に保護されていていますので、一般にも広く知れ渡った有名な産地ですが、実際の化石は入手が困難であり、稀に出てきても非常に高価です。昔のオールドコレクションが放出されるのを待つしか入手の機会は無いのですが、これだけの産地のものは出てきても市場に登場することが珍しくなります。Elrathia kingiに似た属名ですが、"n"がついている全く別の種類です。(分類上は近いですが)バージェス頁岩における三葉虫の割合は、実は非常に低い事で知られています。
Middle Cambrian Alokistocaridae,Ptychoparioidea,Ptychopariida TRI-158 StephenTrilobites
